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阪神・淡路大震災 被災地で見たもの


神戸を直撃した大地震から6日目。1月23日の夜のことだ。市民団体と企業の橋渡し役として「応援する市民の会(NPO応援団)」の拠点に滞在していた私は、停電で街灯もつかず、瓦礫が散乱している西宮商店街の夜道を月明かりと自転車のライトだけを頼りに走っていた。
その時、前方の暗闇に白いショールをまとった女性のシルエットが浮かびだされた。20代前半、足取りは確かだが、瞳は遙かかなたを見つめ、心は闇を彷徨っているかのようだ。
「パパー!ママー!おじいちゃーん!」。
月の青白い光に彼女の顔が照らされた時、昨夜見たニュースの映像が頭に浮かんだ。今、まさに私とすれ違おうとしているのは、自衛隊が捜索する全壊した自宅の前で、ただひたすら家族の無事を祈って叫び続けていたあの彼女だった。
ニュースからは家族の消息は分からなかったが、彼女とすれ違った瞬間、体を覆う深い悲しみが伝わってきた。
思わず私は自転車のブレーキを踏み、振り返った。そして、闇のなかに消えていく孤独な白いショールの後ろ姿をただ呆然と見送った。
地震が起きるまでは、きっと彼女は家族に囲まれながら幸せな生活を送っていたにちがいない。その幸せが家とともに崩れ、一人だけこの世に取り残されてしまったのだ。これから先、いったい彼女は一人でどのように生きていくのだろう・・・。
一瞬にして人々の命を飲み込んでしまった地震の恐ろしさを改めて感じずにはいられない瞬間だった。


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