将来の希望は明るく
― 証券市場の活性化に向けて

小山 敬次郎
経団連専務理事


証券市場は危機的状態

急激な円高、景気回復の遅れ、金融システムへの不信感などが証券市場を極度の不振に陥らせている。こうした複雑に絡まる問題を解決しなければ、企業の資金調達の道は閉ざされたままであり、企業経営に重大な支障となる。ベンチャービジネスや成長産業の育成にも深刻な悪影響を及ぼす。証券市場の活性化は、まさに経済界全体にとっての緊急課題である。

経団連あげてのグランド・ポリシーを

経団連では、今般、証券市場問題に関する緊急アンケートを行い、会員企業に対し、市場の当面する課題の解決策について、幅広く意見を求めた。その調査結果を見ても、産業界は日本経済の心臓部であるとして証券市場に大きな期待を寄せており、現在の証券市場の低迷を放置すれば、日本経済全体が沈没しかねないという強い危機意識が示されている。
そこで経団連は、昨年12月に大蔵省に提言した証券市場活性化策に続き、改めて緊急提言を行うこととした。今回行なったアンケートをふまえて提言する内容は、経団連を挙げて、産業界の強い決意を表明するものになろう。いわば経団連のグランド・ポリシーともいうべきものであり、この決意表明が市場心理にプラスに働けば、と願っている。

証券市場活性化のための5つの方策

私見として述べれば、証券市場活性化のために5つの方策があると思う。

第1は、「株式投資は悪であるという風潮を改める意識改革」。
株式による資金調達と運用は、企業にとっても国民にとってもきわめて重要な意義を持つものである。こうした意義を正しく理解してもらい、株式投資を罪悪視する風潮を払拭する必要がある。アメリカのように小学生の時から株式投資の意義や方法について教育を行うことも必要ではないか。

第2が、「一般投資家に対するわかりやすさと透明性の確保」。
デリバティブ取引の活発化やいわゆるPKOの問題もあり、一般投資家にとって証券市場がわかりにくいものとなっている。わかりやすい透明な市場とすることが重要である。

第3が、「投資魅力の増大」。
発行企業においても、投資魅力の向上のために配当政策の見直し、投資単位の引下げなど、思い切った措置を講じ、新しい投資家を開拓することが必要である。

第4は、「規制緩和などを通じた自由闊達な市場づくり」。
経団連のアンケートでも、証券市場の規制緩和を求める声が、多く挙がっている。子会社上場、店頭公開にかかる規制の緩和、時価発行ルールの見直しなど規制緩和を進め、市場関係者が自由闊達に動ける市場とすることが重要である。

第5が、「グローバル・スタンダードから見て効率性のある市場作り」。
市場の効率化を進めるために、グローバル・スタンダードに基づいた市場づくりが不可欠である。具体的には有価証券取引税や配当の二重課税を撤廃し、国際的に整合性のとれた証券税制を確立するとともに、関係業界の協力を得て、取引コストの軽減を図る必要がある。

また、5つの方策からは離れるが、42兆円もの資金がコール市場に滞留していることを考えると、適切な金利政策を通じてコール市場から証券市場に資金が流れるようにすることも緊急の課題である。

シュバイツァーの言葉を胸に

「現実認識は厳しくあるべきだが、将来の希望は明るく持とう。そうすればやがて青空が見えてくる」
これは、アフリカ、ランバレーネの地で現地人のために死ぬまで医療活動を続けたシュバイツァー博士の言葉である。懸命の努力を続けられている多くの証券市場関係者の方々に、この言葉を捧げたい。


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