アレン・サイナイ氏との懇談会(司会 三好事務総長)/3月10日

世界経済の先行きは明るく、円高の影響は深刻なものとはならない


経団連では世界を代表する有力エコノミストであるリーマン・ブラザーズのアレン・サイナイ チーフ・エコノミストを毎年招いている。サイナイ氏は、「世界経済は良好であり、海外の需要は根強い。円高に伴う影響は軽微にとどまる。メキシコ問題の解決には大幅な景気減速が必要だが、その実現には困難が伴う」などと述べた。以下はその発言の概要である。

  1. 世界経済の動向と今後の見通し
  2. 世界経済は95、96年とも順調な景気拡大が見込まれる。リーマン・ブラザーズがカバーしている世界46カ国のうち実に43カ国で景気拡大が見込まれている。
    アメリカのインフレ率は95年初頭から上昇気味だが、今後は成長率が鈍化し、急激な上昇は生じない。FRBがインフレ予防的金融政策を堅持しており、景気拡大5年目に入っても景気後退の兆候は現れていない。コロンビア、エクアドル、チリなど中南米諸国は順調な拡大を続けているが、メキシコとベネズエラは景気後退が予想される。
    アジア太平洋地域ではNIES諸国やエマージング・マーケットを中心に恒常的な景気拡大が続いている。ただ、中国はインフレ率が20%を越え、トウ小平氏の健康状態が政治経済の不確実性を高めている。
    日本は統計的には景気回復過程にあるが、これまでのパターンと異なり、景気回復を実感できるまでに至っていない。
    ヨーロッパは景気拡大の初期段階にあり、ドイツはその牽引車である。
    ロシアの景気は低迷するであろうが、東欧諸国は市場経済に移行中であり、ロシア経済の混乱の影響はそれほど深刻でない。

  3. 金融市場の動向
  4. FRBは物価の安定、とりわけゼロ・インフレを目指している。FRBは過去2年間インフレが加速する前に早めに大胆な利上げによる予防措置を講じてきた。
    メキシコの通貨危機はペソの過大評価の結果である。原因は景気過熱と経常収支赤字を抑えきれなかったことにある。今必要なのは相当程度の景気減速による経常収支赤字の削減であるが、大幅なインフレにより通貨調整が効を奏さない。政府支出の削減が必要だが、緊縮政策を続けるマイナス効果も大きく、問題解決には困難を伴う。
    ドル安、円高に歯止めをかけるためには、米日独など主要国の同時的調整が必要である。アメリカの主要貿易相手国のカナダ、メキシコに対してドルは切り上がっており、FRBはインフレを懸念していない。ドイツ連銀はインフレを考慮して利下げには合意しないだろう。
    世界経済は好調で輸出も高水準であり、円高が今のレベルに止まれば日本経済に与える影響はそれほど大きくない。円高の影響を少なくすることができるかどうかは、各国政府の政策でなく、各企業の調整にかかっている。


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