クチマ ウクライナ大統領講演会(座長 河毛二郎 日本NIS経済委員長)/3月24日

日本は経済発展の師、具体的な協力を望みたい


日本NIS経済委員会は、公賓として来日中のクチマ ウクライナ大統領を招き、講演会ならびに昼食懇談会を開催した。大統領は、自国経済が有する潜在力に触れ、日本との経済協力で具体的な分野を提示した。また、昼食懇談会では「日本を同国経済発展の師と仰ぎ、良い生徒となって学びたい」との発言があった。以下はクチマ大統領の発言要旨である。

1.ウクライナ経済の潜在力

世界に名だたる日本の奇跡を作り出した日本経済界に会えて光栄である。
ウクライナは、高度に発展した経済を建設し、将来、世界の先進国の一員になることを目標に掲げて、今、スタートダッシュをしているところである。私は、国が置かれている現在の状況を批判的に認識しながら、同時に、わが国がヨーロッパ大陸の中央に位置する5200万人もの人口を擁する大国であり、素晴らしい自然条件を有するとともに、世界的に見ても強大な工業・科学技術の潜在力を持っていることを確認せずにはいられない。
歴史的経緯から、国内には冶金・化学・重機械工業・造船・エレクトロニクス、その他分野の生産施設が集中し、旧ソ連のみならず、コメコン諸国の需要に応えてきた。さらに、わが国はソ連のハイテク軍需製品の25%以上を生産し、軍産複合体の強力な研究・設計センターをいくつも抱えてきた。
世界でも有数の鉱物資源の生産国でもあり、約90種類の鉱物が生産されている。真の財産は土地資源で、世界の国土地帯の30%以上が集中している。国民は勤勉で、教育水準も高い。

2.経済に改善の兆し

生産力の発展を妨げていた古いシステムは壊れつつあるものの、現在、このように高い潜在的経済力が、非効率的な利用しかなされていない主な理由は、ここ数年間の経済政策に一貫性が欠けていたことの後遺症やソ連邦崩壊後、数多くの基幹生産部門で国内完結型の経済体制が作り出されなかったことにある。
これら複雑で多岐にわたる問題を最小限の時間で解決する必要がある。そこで、昨年の秋以来、本格的な市場改革に着手した。IMF・世界銀行を含む国際金融機関との協力を広げ、昨年末にはこれらの金融機関から初めて融資を受けたが、これは経済改革が信頼されていることを示すものである。5年にわたる経済危機も底を打ち、安定化の傾向は、かなりはっきり認められる。
政治面では、ウクライナは平和な外交政策を持つ信頼できるパートナーとして、国際社会の一員となった。核兵器放棄を一貫して堅持し、民族紛争とは無縁な国家である。

3.可能性秘める科学技術実用化協力

国際協力を広範に進める前提は既に揃っている。分野としては、ウクライナが持つ先進的な科学技術の実用化がある。
例えば、電算技術、生物・化学技術、素材加工・電気溶接技術、ロケット技術、石油ガスパイプライン敷設技術などのほか、宇宙通信システム、核技術、鉄鋼産業・航空機産業の育成などである。
また、南部に大型の軍艦造船所があり、電子機器とナビゲーション機器を国外から調達すれば、第一級の船が建造できる。
基幹産業である鉄鋼業の近代化や軍民転換なども外国の協力を要する分野である。わが国が必要とする外国投資は300億ドル以上に上るが、わが国の高度技術、産業基盤、労働力を用いれば、生産や輸送のコストが大幅に削減され、日本がCIS市場を開拓するにも、また製品を欧州市場に進出させるためにも役立つであろう。

4.日本の協力への具体的提案

日本の産業界とウクライナの軍産複合体企業との接触は既に始まっている。この分野での協力が深まることは、両国に経済的利益をもたらすものである。ウクライナ国民の購買力は枯渇していない。1994年には外国産乗用車が14万4500台売れたが、うち日本車は1万5500台に過ぎず、まだまだ進出の余地がある。
以上のように、ウクライナ日本両国間関係には、質的に新しい状況が訪れたと考えている。しかし、一方で、協力の成立を阻む抑制要因があることも認識している。それは、情報不足、二国間条約・法的基盤・具体的協力プログラムの欠如、貿易の不均衡などである。これら障壁の克服が、われわれの今後の緊急課題だと考える。
両国の長期協力の具体的方向は次のようなものと考える。
  1. ウクライナの軍産複合体技術と日本の投資・先端技術の結合による国際競争力を持つ製品の量産。
  2. 航空機の生産、自動車生産での協力。
  3. ウクライナの石油精製、鉄鋼、化学部門での協力。
  4. エネルギー産業および代替エネルギー分野での科学技術協力。
  5. 農業生産への日本のバイオテクノロジーの導入。
  6. 両国間の貿易・経済関係の発展に資する情報分野での協力。

また、日本の資金供与による第三国での技術協力にも関心がある。ウクライナはアフリカの治水施設の建設改修に大きな経験がある。旧ソ連時代に、中国・東南アジア・インドシナ諸国でわが国の専門家が建設したエネルギー施設などの生産施設の改造・近代化、東南アジアや北アフリカでの鉄道建設、ギニアの世界有数のボーキサイト産地の開発などが協力可能な分野であろう。
これらの提案は村山首相にも話したところ、関心を示された。村山首相には、ウクライナが日本のビジネスを待っており、そのための好条件、特に安定した予測可能な条件を作り出す努力をしていることを強調した。ウクライナが特恵貿易待遇を適用した最初の国のひとつが日本であることは、われわれの行動を裏付けるものである。
本日の懇談会を持てたことにより、私は、両国協力の展望について、楽天的な気持ちで帰国することができるだろう。


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