わが国 経済社会の基本構想
− 長期のビジョンとシナリオづくり −

和田 龍幸
経団連常務理事


本年1月3日、経団連は「活力と創造性あふれる経済社会を目指して」(『経団連くりっぷ』1号参照)を発表した。この中で、自己責任原則に基づく経済システムへ転換するとした上で、21世紀の経済社会をどのように構築して行くかについて各界と積極的に政策対話を行なっていきたいと述べ、
  1. 景気回復の足取りを確かなものにする
  2. 規制の撤廃、緩和を強力に推進する
  3. 創造性に富む人材の育成策を提言し、実行に移す
  4. 海外諸国との民間レベルの交流を拡大する、
    そして最後に
  5. 活力と創造性あふれる経済社会の構想づくりを進める、
    としている。

上記の中、特に5の「構想づくり」は、経済政策のみならず産業全体のシステム、企業倫理まで多様な分野をカバーすることになるので、事務局内に専らこの問題に取り組むセクションとして総合企画課を新設することとした。同課は1年の任務を終えたあと解散する予定である。なお本プロジェクトは総合対策委員会(委員長は豊田会長)の所管となる。
この構想づくりの検討を始めるにあたって、既に会長副会長会議、評議員懇談会等において方向づけのための討議がなされ、以下に記すような貴重な示唆をいただいた。

問題意識

現在の状況は内外の経済社会の変化に対する認識の遅れと将来への問題提起が不十分だったことから生じた危機であると要約される。わが国は80年代には先進国の中で最もすぐれた経済実績を示し、経済活動は急速に国際化した。
その結果アジアのリーダー、さらには国際経済のアンカーとまで目されるに至った。
ところが90年代に入って事態は一変し、バブル崩壊からデフレ経済に突入し、急激な円高がこれを加速した。
そして、今や国内的には産業のみならず、金融、運輸面などの空洞化が、国際的には孤立化が、懸念されている。
この原因は80年代の経済急膨張の中で、戦後の追いつき追い越せという政策思想に沿ってできあがった構造を改革し、思い切って開かれた市場へと脱皮する努力を怠ったことにあり、そのつけが、現在顕在化しているといえよう。
そこで、今こそ政治改革や規制緩和をすみやかに実のあるものにすると同時に、21世紀に向けた方向づけを行わないと、今日の閉塞状況から脱出することは難しい。

基本方向

このような問題意識に基づいて日本をどういう国にするのかという基本的な点について議論を深めなければならない。
これについての意見は多様であり、例えば経済活動と生活・文化との調和、企業・産業と消費者・生活者の位置づけ、一国繁栄主義から脱却してグローバル・グロースを目指す、あるいは、もっと理念的に敬愛される国、若者が夢を抱ける国等々である。
ここでは、当然のことながら、国の政治、外交とベクトルがそろわなければならない。
いずれにせよ、変化は過去との断絶であり、創造は過去の否定であるから、これまでの経済社会が解体した後どうなるか、というぐらいの大胆な発想に立つべしとの指摘もあった。

課題

この構想は長期を視野に置いているので、構造的な面での検討が中心になるが、政府の政策に係わるもの、企業自身のビヘイビアに係わるものなど整理が必要となる。経済団体がまとめる構想であるから、政府頼みという構図を脱し、企業自らの行動基準を重視したものとなろう。例えば、以下のような課題が想定される。
  1. フレームワーク(人口、エネルギー、地球環境、成長率)
  2. 国の仕組み(議会制度、政党、中央政府)
  3. 政府の役割(社会資本、福祉)
  4. 日本の産業の姿(リーディング産業、技術開発、人材育成)
  5. 日本と世界のつながり(国際通貨体制、経済協力、安全保障)
  6. 企業のあり方
    1. 企業の役割(財・サービスの供給、納税、雇用)
    2. 企業と地球環境
    3. 企業と政治
    4. 企業と個人・市民
  7. 経済団体、NPO、国際機関の位置づけ
  8. 経団連の役割
現実から遊離せず、しかも大胆さと創意を備えた構想をどう組み立てるか、工夫を要するところである。

構想の性格

この構想が考察の対象とする期間について、戦後50年の対極として、これからの50年という考え方が上限となろう。いずれにしても、当面の政策課題は各委員会のテーマとなる。
構想の性格としては
  1. 計量的な手法やデルファイ法などによる予測があるが、これらの手法も必要に応じて参考にする。
  2. 次に通常の意見書のような政策提言型のものが考えられるが、この場合、長期を考える中では、個別政策よりは、むしろ政府の役割、国民負担のあり方、外交の考え方などを基本的に取り上げることになろう。
  3. 問題提起型も考えられる。現状のまま、大きな枠組みに改善が加えられないと、これに矛盾や困難が生じる、という点を指摘し、政府、企業、個人の対応を考える、という形である。
  4. また、企業の役割に焦点をしぼり、政府の役割を明示し、あとは企業の自己責任の問題であるとして、企業行動規範を中心とした方式も考えられる。
今回の「構想づくり」は経団連として初めての試みであり、会員各位のご意見を十分に反映したものとしたい。


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