日本銀行幹部との懇談会(進行 久米 豊氏)/4月19日

行き過ぎた円高是正に向け、具体的な取組みを


財政金融委員会では、松下総裁はじめ日本銀行幹部を招いて常任委員会を開催し、内外の景況をめぐり意見交換を行なった。冒頭、久米副会長より、実体経済に配慮した金融政策運営を要請し、また豊田会長からも、行き過ぎた円高の是正に向けて緊急円高・経済対策の着実に実行するよう、強く求めた。松下総裁からは「円高と株価低迷により、経済の先行きへの不透明感が強まっている。公定歩合引下げに伴う金利低下は、円高に歯止めをかけると期待できるが、あわせて、抜本的な規制緩和や不良債権問題の処理にも取り組み、アメリカに対しても財政赤字圧縮を求めていく必要がある」との説明があった。

  1. 豊田会長挨拶要旨
    1. 政府の思い切った緊急円高・経済対策、公定歩合引き下げにもかかわらず、円高に歯止めがかからないことは残念である。

    2. 政府には、大型補正予算を含め緊急対策を実行して移してほしい。アメリカに対しても、基軸通貨であるドル防衛に向けた双子の赤字改善など思い切った手を打つよう、強く求めてほしい。

  2. 松下総裁挨拶要旨
  3. 1.強まる先行きの不透明感

    日本経済は、産業構造再編やバランスシート問題など構造的圧力に直面している。景気回復局面に入り1年半が過ぎたが、なかなか弾みがつかず、最近は緩やかさが目立ってきた。円高の進行と、これを嫌気した株価低迷による金融システムの不安もあり、先行きの不透明感は一層強まっている。

    2.公定歩合引下げの背景

    3月の段階では「景気は引き続き回復過程を辿る」との判断を変更する明確な材料もなく、短期金利引下げで対応した。しかし、その後も円高は進行、株価も低迷している。景気も、緩やかな回復から一歩後退し、先行きが懸念されるようになったため、日銀は、景気回復のテンポを加速させる必要があると判断し、公定歩合引下げに踏み切った。公定歩合を史上最低の1%まで下げたため、仮に景気回復に弾みがついた場合には、副作用が懸念されることになるが、それでも引下げに踏み切った。われわれの決意のほどをくみ取ってほしい。

    3.抜本的な規制緩和、不良債権処理を

    金利政策は、為替相場安定だけのために発動すべきものではないが、金利低下が結果として円高の行き過ぎに歯止めをかけることは間違いない。ただし、現在の円高・ドル安の背景のひとつには、アメリカの構造問題への市場の不安があり、アメリカに対して財政赤字圧縮などを強く求めていく必要がある。同時に、わが国でも抜本的な規制緩和、不良債権問題の処理やそのための金融・資本市場の活性化などに取り組み、国内の投資機会を増やすことが肝要である。
    日銀としても、引き続きマクロ経済の安定と、金融システムの安定確保に向けて、全力を尽くしていく。

  4. 国内の景況について
    ─ 本間理事・大阪支店長説明
  5. 1.なお時間を要する震災復興

    阪神・淡路大震災の直後は、生産の減少、物流の停滞等の影響がみられたが、約3カ月経過した現在、景気回復の基盤が揺らぐまでには至っていない。消費マインドは立ち直りつつあり、また震災復旧関連で、建設資材、耐久消費財に新規需要が出ている。ただし、地域の本格的な復興に向けては、街づくりに対する自治体と住民の考え方の違いや、地権者の利害調整などの問題もあり、相当の時間を要すると思われる。

    2.あまりに急激な円高の進行

    円高の進行とともに、回復基調にある経済活動にも、次第に緩慢さが目立ってきた。個人消費は、自動車や家電等が好調だが、全体としてはいまひとつ盛り上がりに欠ける。設備投資はようやく下げ止まり、弱電などでは堅調な動きがみられるが、総じて抑制気味である。生産も、過去の局面と比べて、緩やかな回復にとどまっている。
    円高が一段と加速するなか各地の経営者からは「コスト削減努力に比べて、円高の進行はあまりにも速すぎる」との声が聞かれる。また、自動車関連などでは、既に輸出価格引上げが相当進んでおり、価格転嫁も限界に近づいている。仮に、1ドル=80円台前半のレートが定着した場合、日本の製造業の基盤が失われる惧れがある、との懸念が出ている。

  6. 海外の景況について
  7. 1.アメリカ
     ─ 原田ニューヨーク駐在参事説明

    住宅投資の落ち込み、耐久消費財など個人消費の伸び率鈍化に加えて、ビジネスマインドにも落ち着きがみられ、アメリカ経済は経済成長の減速と物価安定というソフトランディングに向け、一歩前進した。本年秋口以降の成長率は2.5 %程度、物価上昇率は3%を切るとの見方が大勢である。

    2.ヨーロッパ
     ─ 松島ロンドン駐在参事説明

    欧州各国は、典型的な景気回復パターンにある。輸出拡大、生産増加、内需拡大の好循環は当面途切れず、今年の欧州経済の成長率、物価上昇率は、ともに3%程度と予想される。

    3.アジア
     ─ 村上香港駐在参事説明

    1. 中国では、今年、経済成長率8〜9%、物価上昇率15%程度にそれぞれ抑制する目標をたて、外資の選別強化および内国民待遇化策を打ち出した。
    2. 今年のNIES諸国の成長率は7%程度、ASEAN諸国は8%程度と予想される。円高が進むなか、この地域では、日本からの直接投資の増加というプラス面、また円建て負債返済の負担増というマイナス面の双方への関心が高まっている。

  8. 懇 談
  9. 経団連:
    金融システムの安定性を確保するため、当局が直接中小金融機関を管理・監督すべきではないか。
    日本銀行:
    制度の問題もあり、幅広い視点からの検討が必要である。ただ自治体の要請があれば、日銀は協力を惜しまない。

    経団連:
    円の国際化を進めるため、TB(短期国債)市場など短期金融市場を整備すべきである。長期金融市場も、市場の透明性や規制の問題があり、改善が必要である。
    日本銀行:
    規制緩和推進計画の行方も見つつ、必要に応じ政府にものを言っていく。


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