経団連提言/5月11日

新時代に対応した防衛力整備計画の策定を望む


経団連では、5月11日に標記提言を公表した(下記全文)。わが国の防衛力整備は、1976年に策定された「防衛計画の大綱」に沿って行われているが、政府は現在、それに代わる新しい防衛力のあり方と防衛力整備について検討を行なっている。本提言は、この動きに対応して、今後の防衛力整備に関する産業界の要望を取りまとめたものである。

  1. 防衛のあるべき姿の明示
  2. 冷戦の終結を受けて、新しい世界のあり方が各国で模索されており、わが国においても、今後の防衛力のあり方が検討されている。
    防衛問題懇談会(総理の私的諮問機関、94年8月)は、冷戦の終結により、わが国はむしろ『より難しい安全保障環境』に直面しつつあるとしている。わが国政府においては、この指摘や世界の平和と安定を確保するための日本の役割を十分考慮した上で、外交、経済・技術援助を含む多様な手段による安全保障政策を策定・開示すべきである。その中で、国民生活の安定・安全と国際社会への貢献のために、わが国がなすべきこと、必要とする能力、米国との協力のあり方など、「防衛のあるべき姿」を明示し、広く国民の理解と支持を求めつつ、防衛力を整備していくべきである。防衛力整備を継続的・計画的に行っていくために、現行中期防衛力整備計画(中期防、91〜95年度)に続く、新中期防を早期に策定し着実に実行していくべきである。

  3. 防衛生産・技術基盤の維持・強化
  4. 防衛力整備に当たっては、防衛生産・技術基盤の存在は不可欠であり、新中期防において基盤の維持・強化を安全保障上の重要課題とすべきである。
    国内防衛生産・技術基盤を維持することは、わが国の防衛政策・国土国情に合った装備品の調達や適時適切な維持・補給、あるいは有事の際の緊急取得にとって不可欠である。また、基盤の存在により、国際紛争が抑止され、防衛技術協力等を通じて日米の絆を強化することができる。
    欧米諸国とは異なり、わが国には国営の軍需工場は存在しないため、わが国の防衛生産・研究開発、装備の維持・補給・能力向上を支えているのは、産業界である。また、装備品の生産は、中小企業を含む多数の企業の参加により可能となっている。しかし、市場が国内に限定された中で、ここ数年、装備予算が削減されてきていることから、各社とも技術者や生産ラインの維持が困難になってきている。
    防衛生産・研究開発には、防衛専用の特殊な技術が必要であり、装備品のハイテク化から、基盤として維持すべき能力は極めて高い。このため、防衛生産・技術基盤が一旦崩壊すると、その再構築には多大な時間と経済的コストが必要になる。産業界も、人員の配置転換や合理化などに必死に取り組んでいる中で基盤の維持に努めているが、政府としても、基盤の維持・強化のために、装備の国産化に引き続き配慮するとともに、新中期防の中で以下の施策を実施すべきである。

    (1) 人材育成、設備投資等に関する企業の自主的対応を可能にする施策
    1. 装備品調達計画のみならず、主要研究開発プロジェクトも明示する。
    2. 主要装備品を安定的に調達する。
    なお、火器・弾薬等、民需の殆ど期待できない製品を生産する防衛専業企業に対しては、当該企業の防衛事業継続を支援する。

    (2) 高度な防衛技術開発力の維持・強化のための施策
    (1) 安全保障上重要な最先端技術統合型研究開発への重点的取り組み
    陸海空の防衛力統合運用等のための情報通信・収集能力、弾道ミサイル対処能力など。
    (2) 技術実証プロジェクトの実施
    単に技術的試験評価に止めず、効率的な部隊運用と量産化のためのデータ取得を可能とする段階まで、研究開発を進める。
    (3) 継続的な装備品の能力向上
    将来の能力向上を念頭において、新規装備品の開発にあたるとともに、既存装備の近代化に積極的に取り組む。
    (4) 大型で高度な研究開発設備の整備
    企業では整備できない研究開発設備については、現在の整備努力に加えて、より高度な研究開発を可能とする施策を講じる。
    なお、今後は、研究開発契約の採算性確保に一層の配慮が必要である。

  5. 国際協力のための環境整備
  6. わが国としては、装備品のハイテク化・高価格化と防衛費の圧迫傾向に対処するため、米国等との国際協力を検討する必要がある。まずは、安全保障上、深い関係にある米国との間で、輸出管理政策の運用、研究開発成果の取扱い、民生技術に係わる企業の権利保護等を解決し、共同研究開発・生産を円滑に実施できる環境を整備すべきである。


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