不公正貿易報告書に関する懇談会(司会 桑田芳郎氏)/4月25日

WTOルールと各国の通商政策・措置


経団連では、通産省の津上公正貿易推進室長を招き、先般産業構造審議会が公表した1995年度版不公正貿易報告書について説明を聞いた。同報告書はわが国の主要貿易相手国の通商政策・措置を分析・評価するものであり、今回からWTOルールを評価基準のひとつとして採用した。

1.津上室長発言要旨

  1. 不公正貿易報告書とは
  2. 3月30日に産業構造審議会から不公正貿易報告書が公表された。この報告書は、わが国の主要貿易相手国の貿易措置を国・貿易措置ごとに分析・評価したもので、今年が4回目となる。分析・評価にあたって、(1)WTO協定、(2)2国間協定、(3)国際慣習法などの客観的基準を採用した。なお、わが国の貿易政策の評価はしていないが、WTOの対日貿易政策検討制度の報告書、アメリカの外国貿易障壁報告書の日本部分、EU(欧州連合)の対日政策報告書の「日本市場の分野別障壁」を参考として掲載した。

  3. 不公正貿易報告書の特色
  4. 今年は、(1)WTO発足を踏まえたWTO加盟国の通商政策・措置の動向分析、(2)中国・台湾に関する分析の強化、(3)外国政府が外国製部品の調達を直接日本企業に要請することの是非について分析を行なっており、例年と異なる。

  5. WTO発足を踏まえたWTO加盟国の通商政策・措置の分析
  6. アメリカ:
    アメリカのウルグアイ・ラウンド(UR)実施法の評価は、分野によって異なる。GATTパネルで問題とされた知的財産権の内外差別措置が改善され評価される。しかし、同じくパネルに取り上げられる通商法301条などの、一方的措置は調査開始から制裁発動の期間をWTOの紛争処理手続きと合わせるなどの技術的な修正が加えられるにとどまり、制度自体は存続している。また、アンチ・ダンピング(AD)の分野では、(1)調査開始の要件、(2)行政見直しの遅れ、(3)サンセット条項などで改善が見られるものの、URで合意が見送られた迂回防止措置が規定されており、懸念材料となっている。
    UR実施法以外では、(1)自動車ラベリングの内外差別的効果、(2)輸出者利益の保護を目的とする競争法の域外適用などを問題点として指摘した。

    EU:
    UR実施法の評価はアメリカと同様、分野によって異なる。EUもアメリカ同様、ADの迂回防止措置を導入しているがUR実施法では、迂回行為の類型として新たに「第3国迂回(AD課税の対象となっている産品を第3国で組み立て当該国へ輸出する)」を導入した。報告書では、迂回防止措置は貿易投資を歪曲させる可能性があり、また、EUが実施している迂回が発生する可能性がある産品の事前登録制は、輸出企業に無用の事務負担を強いていると指摘している。

    アジア諸国:
    アジアでは発展のために積極的に外資を導入する必要があるとして外資誘致競争が起こっており、投資障壁の除去が積極的に行われている。また貿易についても自由化が発展につながるとの発想が芽生えつつある。そこで、アジア諸国の貿易・投資自由化措置を精力的に調査し積極的に評価した。

  7. 中国・台湾の貿易政策・措置の分析
  8. 中国はWTO加盟に向けて、大幅な制度改善を行っている一方、政府内にWTO原則が浸透しておらず、WTO違反の政策(自動車産業政策など)を新たに導入する事態も見られる。この他、化学品の初回輸入登録制度、家電製品の品質を保証する「長城マーク」取得の強制、増値税不還付などを問題点として指摘した。なお、増値税不還付はWTOルールに抵触するとは言えないが、日中投資保護協定違反の疑いがある。
    台湾については、すでに先進国待遇での加盟を了承しており、問題は少ない。最大の問題は対日自動車輸入禁止措置である。

  9. 外国政府が外国製部品の調達を直接日本企業に要請することの是非についての分析
  10. 日米包括経済協議の自動車・同部品交渉が大詰めを迎えている。そこで同交渉においてアメリカが主張している日本企業(日系企業)によるボランタリー・プランの上積み要求について、(1)WTO原則、(2)WTOの個別ルール、(3)日米友好通商航海条約、(4)国際法の基本原則、(5)日米両国の独占禁止法に照らして分析を行なっている。結果、アメリカ日系工場でのアメリカ製部品優遇による輸入代替の発生(日米貿易の歪曲効果)や事実上のローカル・コンテント要求となるため貿易関連投資措置協定違反となることなどの問題を指摘している。

2.質疑応答

問:
日米包括経済協議の自動車・同部品交渉で、アメリカが通商法301条に基づく制裁措置を発動する可能性はあるか。

答:
アメリカ政府が制裁対象リストを作成したとの情報もある。アメリカ国内産業への影響やWTOルール違反を考慮すると具体的に実施できる制裁は限られていると思うが、政治情勢によって発動される恐れはある。


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