経済協力委員会(昼食懇談会座長 米倉経済協力委員長)/5月9日
(講演会座長 由布国際協力プロジェクト部会長)

中東和平交渉と中東・北アフリカの経済展望をめぐりコックウェザー世界銀行副総裁と懇談


経団連では、昨年10月の経済協力委員会の経済協力政策対話ミッションの派遣を契機に、民間経済団体としては世界で初めて世界銀行との制度的協力関係の構築について合意した。この活動の一環として、経済協力委員会ではコックウェザー世界銀行副総裁(中東・北アフリカ担当)を招き、中東和平交渉と中東・北アフリカ地域の経済展望につき説明を聞くとともに、意見交換をした。以下はコックウェザー副総裁の説明要旨である。

1.中東・北アフリカの新たな潮流

発展途上国では、市場開放による世界経済への統合、そして経済開発における民間の役割の重視という大きな2つの潮流がある。中東・北アフリカ地域は長い間このグローバルな流れから取り残されてきたが、和平プロセスの進展により政治的対立から地域協力、国家改革というグローバルな流れに沿った成長が生まれつつある。
中東・北アフリカ諸国は企業家精神に富んだ人材を有し、市場、労働力の拡大に加え、欧州との自由貿易協定締結の準備も進めている。同地域は日本の投資家にとっても戦略的な意義があると考えられる。

2.失われた開発の10年

中東・北アフリカ地域は80年代初頭から一人当たりの実質国民所得が伸びておらず、投資も低水準で効率が悪い。また、失業率は20%を越え、その殆どが若年層である。国民の25%が貧困層に属し、非識字率は世界で最も高い。さらに、水資源の危機、環境の悪化という問題が成長を阻害している。
しかし、この地域は国家間の成長の差も大きく、経済安定化に成功している国もある。全体として、15年前に比べ、債務負担も軽くなっている。

3.平和の配当を実現するための課題

急速な成長があって初めて平和を揺るぎないものにすることができる。そのための開発のパラダイムについては、東アジアの発展から学ぶことが重要である。即ち、人口の伸び率を上回る5%程度の急速な経済成長、成長の成果の平等な分配、ならびに環境に配慮した持続的な成長を達成しなくてはならない。

(1) 急速な経済成長の実現
この地域の経済成長を実現する上で、マクロ経済の安定、債務負担の削減、成長のエンジンとしての民間部門の活用が課題である。また、この地域が歴史的に有する豊かな企業家精神を活用するためには、貿易障壁の削減、金融資本市場の整備、規制緩和、国営企業の民営化、国家改革と政府の役割の再定義、企業のイノベーションが必要である。
企業の能力の向上においては、海外直接投資への期待が大きい。生産・経営技術の移転、企業レベルでの国際協力の推進など、日本企業が東南アジアで行ったことをこの地域でも実現することが重要である。

(2) 成長の成果の平等な分配と教育
中東・北アフリカでは所得の不平等が大きな問題となっている。東アジアの急成長はその成果が全ての人に分配されるプラス・サム・ゲームであった。所得分配を平等にするためには教育が重要であり、教育の質を向上させなくてはならない。特に、女性への初等教育の拡充を通じ、その社会参加を促すべきである。

(3) 持続的成長の実現
中東・北アフリカ地域には砂漠地帯があり、水問題と土地の劣化問題を抱え、環境的には脆弱である。また、カイロの大気汚染や水質汚濁は安全基準を大幅に上回っている。世銀としては、日本とも協力して各国ごとの環境アクション・プランに取り組んでいきたい。また、世銀の打ち出した「水戦略」において、水の節約・リサイクルを推進し、多国間にまたがる水管理を進めたい。

4.国別の改革への取り組み

(1) 改革推進国グループ
モロッコ、チュニジア、ヨルダン、イスラエルでは国内の改革が進んでおり、経済安定が達成されている。モロッコでは外国からの直接投資が増えている。現在、欧州連合はこの4か国と自由貿易協定の交渉を行っている。

(2) 緩慢な改革国グループ
エジプトでは債務救済がある程度成果をあげており、構造改革、民営化、貿易の自由化が課題となっている。同国は地勢学的に重要な国であったため援助を受けてきた経緯があるが、これに甘えて構造改革を避けてはならない。社会セクターの開発も重要であり、世銀としては融資を拡大するつもりである。
シリアでは緩やかな改革が行われているが、それを継続できるかどうかはイスラエルとの和平プロセス次第である。

(3) 経済復興国グループ
レバノンには活力ある民間セクターが存在しているが、政治的には脆弱で、財政赤字も大きく、制度の強化が課題である。
パレスチナについては、オスロでの和平協定の後、復興のブルー・プリントが提示されているが、その実施は満足できる状況にない。和平交渉の遅れ、自治当局の不十分な制度と運営、国境の封鎖等もあり、援助国のプログラムも実施が遅れている。今後、7月のパリでの援助国会議を中心に援助国間の調整が進むが、パレスチナ人の主体性が重要である。
イランに関しては、マクロ経済は深刻な状況で、債務返済の遅延も生じている。イランへは世銀の借款は出ていないが、安定化に向けた改革に期待するのみである。

(4) 危機に対する調整国グループ
アルジェリアは政治的には危機的な状況にあるが、経済面では安定化に向けた改革が進んでいる。援助なくしては大規模な改革は進まず、世銀はIMFとも協力して毎年3億ドルの支援を行なっている。

(5) 産油国グループ
サウジアラビア、オマーンでは経済調整と改革がゆっくりと進んでいる。オマーンは小国だが先見性があり、脱石油の経済基盤を作ろうとしている。これらの国は政権の正統性に問題があり、新しい社会協約および国民参加の国造りのための草の根活動への支援が重要である。


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