創造的な人材の育成に関する懇談会(座長 末松副会長)/5月11日

国際的視点から見たわが国教育システムの問題点と今後の課題


当懇談会では、創造的な人材の育成に関して、日本の教育システムに何が必要かについて、さまざまな人を招いて意見交換を行なっている。今回は、上智大学グレゴリー・クラーク比較文化学部教授より、国際的な視点から見たわが国教育システムの問題点と今後の課題について、話を伺うとともに意見を交換した。また今回から、教育分野における有識者の方々に、アドバイザーの形で、懇談会の議論に参加いただくこととなった。以下は、その概要である。

1.クラーク教授説明要旨

  1. 日本人の特性─欧米との比較
    1. 日本人に創造性がないと言われるが、そうは思わない。例えば、応用技術に見られるように、日本人は、現実的・具体的な問題への対応面で、創造性を発揮している。その一方、純粋科学などの抽象的な創造性については、欧米人の方が優れていると言えよう。これからは、日本人は、抽象的な創造性を身につけることが求められる。

    2. 欧米と比較して、日本人は、集団主義で閉鎖的であるために、視野が狭いという側面がある。しかし、欧米のような個人主義の社会にも、脱落者が生まれやすいというような問題もある。全面的に改めるのではなく、個人主義的要素をより増やすことを考えるべきである。

  2. 今後の教育システムのあり方
    1. 日本ほどではないが、イギリスでも受験は厳しい。しかし、大学では、卒業試験などの成績で、学生は厳しくランク付けされるため、ランクが低ければ、1流大学であっても企業には評価されない。むしろ、地方の大学を優秀な成績で卒業した人のほうが、評価が高い。わが国でも、卒業試験を導入するとともに、企業の採用にあたっても、どこの大学に入ったかを重視するのでなく、大学で何を学んだかを重視するべきではないか。

    2. 日本の教育は、“外”の社会に対する関心が少ない。そのために、学生の視野は狭くなっている。外の世界に目を向けることがなければ、創造性の育成は難しい。
      例えば、アメリカでは、子供ですら毎日新聞を読んでいるにもかかわらず、日本の大学生は、まず読まない。これでは、社会情勢を的確につかむことはできない。
      高校の授業で、現代時事問題の教科を設けると同時に、大学入試あるいは、企業の採用段階において、現在の世界情勢を問うような問題を出してはどうか。

    3. さらには、ボーイスカウトやボランティア活動など、学校以外の活動を教育に取り入れていく必要がある。週休2日制が導入されつつあるが、それでも学校中心の生活からは抜け出せていない。
      大学入試あるいは企業の採用段階において、ボランティア歴などの学校以外の活動を評価していくべきではないか。

2.懇談・意見交換概要

  1. 留学生の受入れ
    1. 日本からアメリカに留学する学生は多いが、アメリカから日本に留学する学生は少ない。日本は、留学生の受入れを増やしていくべきである。

    2. 外国人の留学生は、日本の大学に入りたがらない。その理由に、1つの大学の単位が、他の大学では通用しない、学位を取るのに外国の大学に比べ手間がかかるなどの大学のシステムに対する不満がある。

    3. 留学生を受け入れる際の問題に、住宅がある。また、教育面の問題としては、英語での授業が少ないことや、日本語の授業に対応した語学面でのサポートも十分でないことが挙げられる。

    4. アメリカのPh.D取得者は、日本の博士号取得者に比べてかなり数が多い。これは日本の方が認定が厳しいためである。しかし、最近は、博士号の取得者を増やす方向に変わりつつある。

    5. 大学間で単位を交換する仕組みは存在している。しかし、カリキュラムが標準化されておらず、同じ科目の授業であっても、A大学の授業と、B大学の授業とを比較する共通のモノサシがないため、大学同士が個々に合意した場合に限られている。

  2. 日本人の国際性
    1. 東南アジアに進出する日本人は、現地の人を差別的な目で見ている。日本は、資金を提供するだけで、現地の習慣・文化にとけ込もうとはしない。

    2. 東南アジアの地方に進出している中小企業の従業員は、現地に完全に溶け込んでいる。日本人の集団主義は、集団内での社交性・結束の強さを示しており、ある集団を離れ、他の集団に入ればすぐに溶け込む適応能力を備えている。

  3. 社会教育
    1. 外国人との交流を通じて、国際性を養うことも必要であるが、それ以上に、視野を広くする教育を行うことが大切である。

    2. 学校教育だけでなく、地域・家庭・学校とが連携を取ることで、視野を広げることになり、幅広い人材育成ができる。学校に、教育の責任全てを持ち込むのは無理がある。

    3. ボーイスカウトなどの社会活動を企業が援助し、普及に努め、子供が、社会や地域で活動できるようにすべきである。

    4. 子供が、ボーイスカウトなどの活動を通じて学校では学べないことを習得するためには、親の姿勢も重要である。少しのケガでも文句を言うようなことはやめるべきである。

    5. ボランティア活動を、学校の成績や試験に組み込むと、良い成績を得る、あるいは試験に通るためだけの理由で、ボランティア活動を行う者が出るおそれがある。活動に参加しただけで、役立つことは何もしないという学生が出る可能性がある。


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