日米自動車交渉に関する懇談会(座長 三田副会長)/5月23日

日米自動車協議の論点と経緯について聞く


5月10日、アメリカ政府は日本の自動車・同部品市場を閉鎖的であるとして、WTO(世界貿易機関)に提訴する旨発表するとともに、アメリカ通商法301条に基づき対日制裁手続きを開始した。さらに16日、対日制裁候補リストを発表した。日本政府は17日にWTOの場における二国間協議を要請している。これらの進展は、今後の日米経済関係に多大な影響を与えることになる。日米包括経済協議、特に自動車関連の交渉の経緯と展望につき、通産省渡辺修機械情報産業局長より説明を聞くとともに懇談した。

渡辺局長説明概要

1.アメリカの制裁候補リスト発表

5月16日、アメリカ政府は日本の補修用自動車部品および自動車装飾品市場が閉鎖的だとして、通商法301条に基づく制裁候補リストを発表した。リストには、5メーカー13車種の日本製高級車があり、実質上の禁止関税となる100%の輸出関税を課すというもの。対象とされる自動車の94年の輸入額は59億ドル。最終決定は6月28日だが、関税賦課は5月20日に遡る。この遡及適用は、即時に船積みに影響が出る。

2.日本の対応

5月17日にGATT(貿易と関税に関する一般協定)第22条1項に基づく協議をアメリカ政府に要請し、協議の場をWTOに移す。日本が指摘するアメリカの違反は、(1)GATT違反および、(2)WTO紛争解決に係る規則および手続きに関する了解への違反である。

(1)

(2) WTO協定の付属書である「紛争解決に係る規則および手続きに関する了解」第23条では、制裁発動に先立ち第22条に定める手続きにしたがって紛争解決機関の承認を受けなくてはないとしている。アメリカ側がこの手続きを経ず、301条に基づく「クロ」認定を行い、一方的措置リストを公表したことは、これに違反している。

日本政府は、アメリカの措置が直ちに日本企業の事業活動に悪影響を与え、産業・貿易に対して甚大な被害を与えるとし、「緊急ケース」として、アメリカ政府に対し10日以内にジュネーブにおいて協議を開催することを要請している。

3.主要論点

  1. ボランタリー・プラン:
    92年および94年に個別企業が公表した部品購入計画は、各社の自主的なものであり、日本政府の責任の範囲外の問題で政府間交渉で扱うべきではないとの立場。アメリカ側がこのプランの上積みに固執したため、合意に至らなかった。

  2. 完成車の市場アクセス(ディーラーシップ):
    アメリカ側要求のうち、(1)独禁法の遵守、周知徹底、(2)ディーラー問題処理の窓口設置、(3)市場アクセス改善のための財政金融上の支援、について両国の主張は近づいた。しかし、(4)毎年一定の割合で外国産車を扱うディーラーを増やすことを約束する、(5)日本の自動車メーカーがディーラーに対してビッグ3の車を取り扱うよう影響力を行使する、との要求については、日本政府は企業活動への介入はできないとの立場を堅持し、拒否した。

  3. 補修部品市場の規制緩和:
    米側要求のうち、(1)重要保安部品の削減、(2)構造等変更検査の対象の削減、(3)特定部品専門の整備事業の承認と認証工場の要件緩和について日本は積極的に歩み寄ったものの、(4)整備工場に整備を含まぬ検査のみを委ねるというアメリカ側提案は弊害が多いため拒否した。

4.今後の見通し

  1. 日本政府は、OECD閣僚理事会、サミットその他の機会を利用し、各国の理解を求める。欧州諸国ならびにオーストラリアから、アメリカによるボランタリー・プランへの固執ならびに一方的措置は支持できないが、日本市場が閉鎖的だという主張には同意できるといった反応を得ている。
  2. アメリカ国内の世論にも注視している。アメリカの有力誌上でアメリカ政府の主張の矛盾が指摘されているものの、包括協議の不調の原因が一般に正しく理解されているとは言えない。
  3. 表面的には日本政府が硬直的な対応をしているようにみえるが、301条に屈すれば次は他の品目(ガラス等)が対象になり、さらには他のアジア諸国に対してもアメリカが同様の態度で臨む懸念がある。
    他方、日本全体としての経常収支黒字が高水準にとどまっている点には留意しており、内需拡大や規制緩和を積極的に推進していく必要がある。
  4. 7年間にわたるウルグアイ・ラウンド交渉を経て設立されたWTOのルールに則り、それを定着させていく必要がある。


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