中南米委員会(座長 由布国際協力プロジェクト部会長)/5月18日

最近の中南米の政治・経済の動向と米州開発銀行(IDB)の取組み


中南米委員会では、米州開発銀行(IDB)のバードゾール副総裁との懇談会を開催し、最近の中南米の政治・経済の動向と米州開発銀行(IDB)の取組みについて聞き、意見交換を行なった。以下は懇談の概要である。

バードゾール副総裁発言要旨


バードゾールIDB副総裁

  1. 最近の中南米の政治・経済の動向
    1. 最近、メキシコ通貨危機があったが、ラテン・アメリカ(以下「ラ米」)の経済は全般に健全化の方向にある。また、将来の見通しも明るい。ラ米のほとんどの国では、90年代に入り次の3点を柱とする経済改革を推進している。
      第1は、金融改革、財政改革である。これはインフレ対策の要であり、ほとんどの国で成功しつつある。今日、ラ米のインフレ率の平均は11%である。インフレ率10%以下の国も10カ国以上ある。特に重要であったのが、財政赤字の大幅な削減である。現在、多くの国で財政赤字の対GDP比が1〜2%であり、財政黒字の国もある。
      第2は、貿易自由化、地域経済統合である。現在、ほとんどの国で非関税障壁が撤廃され、関税も10〜15%削減されている。NAFTA、アンデス共同市場、メルコスールといった地域経済統合は、アジアとの貿易等の上でも大きな可能性をもたらす動きである。
      第3は、民営化である。効率が悪く財政赤字の原因であった国営企業の民営化が、89〜90年頃から効果をもたらし始めた。ここ5年、投資率、輸出、経済成長率も上昇した。ラ米の経済は、4〜5年連続して成長している。

    2. 問題点、課題は以下の4点である。
      1. 民間貯蓄率が低い。民間貯蓄率が低いため、公的部門で貯蓄率が高くても、外国からの資本流入を求めざるを得ない。急に資本が海外に流出すると経済の脆弱性を露呈する。
      2. ラ米の過去のインフレの歴史に関係するが、現在、ラ米各国は経済のアンカーを為替レートに依存している。これは、通貨高を意味し、競争力の低下をもたらし、問題である。
        逆に、日本では、ここ10〜20年、為替レートが競争力を高めるためのインセンティヴとなってきた。したがって、ラ米でもそれが可能か、また、可能ならしめる条件は何かを検討することが必要である。
      3. ほとんどのラ米諸国で、インフラと教育が不足している。世銀の予測では、ラ米のインフラ整備には、今後10年間、1年間当たり少なくとも500億ドルが必要であり、これで初めてインフラが経済成長のボトル・ネックとなることを解消できる。現在、世銀とIDBはラ米全体で100億ドルを融資しているに過ぎない。500億ドルを調達するには、民間の多額の投資が必要である。
        また、教育は成長のため、欠くことができない。ラ米の労働者の平均教育期間は、5〜6年であり、東アジアの平均の半分のレベルである。
      4. 確かに90年代に入り、成長が回復した。しかし、GDP成長率は平均で年率4%である。アジアでは8〜10%である。現在の成長率は、国民生活の向上や、貧困の撲滅には不十分である。

    3. 最近の金融危機は、82年のメキシコ危機の繰返しではない。現在のラ米は、構造改革、貿易自由化という根本的な改革を実施した。輸出のダイナミズムを作り、危機克服を容易にしている。
      例えばメキシコは、今年第1四半期、輸出が拡大し輸入が減った。メキシコは80年代には輸入の抑制で調整しようとしたが、今は輸出を伸ばすことで調整しようとしている。
      最近の危機で取り沙汰されるが、ファンダメンタルズから見れば、ラ米経済は健全であり、課題はあるが将来の成長の可能性は大きい。

  2. メキシコ危機後のIDBの取組み
    1. 引き続き改革への支援を進める。
    2. 銀行セクターを従来より重視する。
    3. 特に長期のインフラ向けの民間資本の流入を促進する。
    4. 社会分野への貸出を強化する。
      教育制度、司法、立法、規制能力の強化等、国家機能の向上を支援する。

質疑応答

経団連側:
インフラ整備に民間資金を引き出すためのIDBの支援策は何か。

バードゾール副総裁:
カントリー・リスクをIDBがカバーする業務を拡充する。例えば、途上国政府による保証がなくとも民間に対し保証を提供できるようになった。

経団連側:
ラテン・アメリカは、政策の継続性が問題と思うがどうか。

バードゾール副総裁:
ベネズエラを例外として、ポピュリズムが終焉しつつあると考える。
アルゼンチンでは、メネム大統領は公務員の賃金引下げのプログラムを掲げていたが、再選された。ブラジルでもカルドーゾ大統領が選ばれた。メキシコでも、セディージョ政権は賃金の大幅引下げ等を行っているが、国民は受け入れつつある。これらの国の国民は、市場指向経済を選択し、持続可能な成長を支持している。ラテン・アメリカでは、新たな規律が生まれつつある。


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