経済協力委員会(委員長 米倉 功氏)/6月12日

わが国の今後の経済協力のあり方
― 平林外務省経済協力局長との懇談会


経済協力委員会では、昨年12月に政策提言「冷戦後のわが国の国際貢献と経済協力の役割」をとりまとめ、その提言の内容の実現に向け関係方面との対話を進めている。
この活動の一環として、当委員会に外務省の平林博経済協力局長を招き、5月初旬に開催されたOECDのDAC(開発援助委員会)上級会合の結果ならびに政府の対中国援助の今後の方針、円高の下での円借款のあり方等について説明を聞き、意見交換を行なった。
以下は懇談の概要である。

1.DACリストの改定

5月上旬、OECD各国の援助責任者の会合であるDAC上級会合が開催され、新しい時代の経済協力のガイド・ラインについて合意をみた。
援助対象国のリストであるDACリストの改定問題については、日本の主張を全面的に採り入れる形で決着した。これにより、これまでDAC加盟国の合意に基づきアドホック・ベースで決めてきたODA対象国の基準が明確となった。
DACリストはパート1とパート2に分かれている。パート1はODA対象国(途上国)のリストで、パート2の掲載国に対する援助はDACで統計を集めるが、ODAには計上されない。
リスト間の移行システムとしては、3年間、世界銀行分類の高所得ライン(国民1人当たりGNPが8,625ドル)を上回った国は、DAC加盟国のコンセンサスによりパート1リストへの残留が認められない限り、原則としてパート2へ移行することとなった。また、国民1人当たりGNPが世界銀行融資適格の上限4,865ドルと高所得国ラインの間に属する国はパート1に原則として残すが、DAC加盟国のコンセンサスが成立した場合にはパート2へ移行することとなった。なお、パート1への残留の可否は、1人当たりGNPを含む10の指標について総合的に判断することとなった。
今回の合意により、ODA対象国を広く確保するという日本の目的は達成できたが、一方で湾岸諸国、カリブ諸国、台湾がODA対象国から外れることにより、これら諸国に対してODAによる技術協力が継続できなくなるという問題がある。技術協力は外交上も有効な手段であり、DACのODAに該当しなくてもODA予算により継続するかどうかは今後の検討課題である。

2.援助疲労への対応

日本を除くDAC加盟国のほとんどで援助疲労が顕著となっており、援助リソースの確保が最重要の課題となっている。このような状況に対し、援助国における国内向けの広報努力が重要となっている。フィリピンのラモス大統領には日本の援助でできた施設の開所式等にはできるだけ出席し挨拶をしてもらっており、援助が目に見えるようにする努力が大事である。さらに、途上国においても、徴税制度の整備、腐敗防止等の努力が必要である。
DAC加盟国のODAが頭打ちの状況の下では、新しい援助国の育成・支援、民間資金の導入とそのためのODAによる環境整備、NGOとの関係強化を推進する必要がある。DACでは賢人会議を設け、1年間にわたりこのような問題について検討を行う予定である。

3.サミットにおける開発協力の議論

昨年のナポリ・サミットで、国際機関の援助のあり方についてハリファックス・サミットまでに検討を行うことが課題として提示された。この課題に対する日本政府の考え方は以下の通りである。
  1. IMF、世界銀行、地域開発銀行の業務には重複が多く、行財政改革が必要である。また、IMF、世界銀行の構造調整政策はほとんど失敗しており、途上国の批判も強く、その見直しが必要である。世界銀行では経済インフラ優先の方針を改め社会部門の強化を打ち出しているが、過度の行き過ぎは好ましくないと考える。
  2. 国連諸機関には、業務の重複が多く、UNCTADやUNIDOのように時代の要請に合った活動をしているかどうか疑問のある機関もある。これら諸機関のスクラップ、業務の調整が必要である。
  3. IMF、世界銀行等のブレトンウッズ機関と国連諸機関の活動の調整が必要である。
  4. 国際機関と2国間援助の調整が必要である。世界銀行では日本の協調融資を当然視する傾向があるが、日本としても世界銀行プロジェクトへの参加を独自に判断する必要がある。日本はUNDPと協力してカンボジアの再定住プログラムを実施したが、多国間と2国間の援助をうまく組み合わせることが重要となっている。

4.対中国援助の方針

先の中国の核実験への対応として、政府は無償資金協力の抑制を発表したが、与党内には円借款や技術協力を含むより強行な手段で臨むべきとの意見が強い。無償資金協力の抑制の幅については、個々のプロジェクトの調査結果や今後の核実験の可能性等も考慮することになる。
日中関係はODA大綱のみから規定するわけにもいかず、次の核実験への対応も含め日本政府の警告のインパクトの様子を見たい。中国側はODAを政治的に扱うことには反対であるという姿勢であるが、今のところ抑制された対応をとっている。

5.円借款の状況と金利改定

94年度の円借款の総額は円建ての交換公文ベースで前年度比で16%減少した。地域別配分ではアジア向けが昨年から10%上昇し87.8%を占めた。今後、中央アジア、中東和平のからみでヨルダン、レバノン等が有力な対象国となろう。
形態別では、ノンプロジェクト借款の割合が低下し、プロジェクト借款の割合が増えた。日本企業の受注比率はさらに低下し、94年度は27%となった。
分野別では、環境関連借款は増加傾向にある。今後、政府としては経済インフラ、社会インフラなど分野別バランス、地域的バランスをとっていきたい。
また、今後供与する円借款金利については、財投金利が下がったため、平均で約 0.4%の金利引下げを行なった。また、初のセクター別優遇金利として、環境特別金利を導入し、通常金利より更に0.2%引き下げられることとした。


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