訪オーストリア、スイス、ハンガリー・ミッション打合会(団長 伊藤 正氏)

今後の欧州への進出拠点としての中欧諸国


経団連では6月11日から21日にかけてオーストリア、スイス、ハンガリーへ投資環境および対EU政策などの調査を目的としてミッションを派遣する。それに先立ってミッション打合会を開催し、外務省(5月29日)、通産省(6月1日)から訪問各国の経済情勢、わが国との関係、EUの動向などについて説明を受けた。

  1. 外務省 東 東欧課長、相星 国際経済第1課首席事務官 説明要旨
  2. 1.オーストリア情勢

    オーストリアは本年1月のEU加盟、国有企業の民営化、競争政策の促進などにより、EU市場へのアクセスや投資環境が向上している。オーストリアでは、一定比率以上のオーストリア製自動車部品を購入している外国メーカーに対して関税を引き下げるカウンター・パーチェス制度を行なっていたが、EU加盟により同制度は廃止された。そのため、オーストリアでは同制度の廃止による日本企業の自動車部品購入が減少することを懸念している。
    オーストリアでは、東欧諸国からの難民の流入防止のため外国人の労働許可取得が困難であることが問題となっている。現在では改善傾向にあるが、日本人がオーストリアで就労するための障害となっている。

    2.スイス情勢

    スイスは、91〜93年にマイナス成長を記録したが、94年にはGDP成長率も貿易収支も改善し、失業率も欧州の中では極めて低い水準で推移している(4%台)。最近では経済構造改革として規制緩和や競争政策の強化が進められている。
    スイスは北欧、オーストリアとともに92年5月にEU加盟申請を行なったが、国民投票によって欧州経済地域(EEA)加盟が否決された。そのため、スイス政府はEUとの間で、人の移動、農産物、運輸などの分野において自由化を進める2国間協定を締結するよう交渉を始めている。

    3. ハンガリー情勢

    ハンガリーは60年代から民主化、市場経済化を進めており、昨年5月に政権に復帰した社会民主党(旧共産党)を中心とする連立政権も民主化、市場経済化を推進している。現政権は社会民主党と自由民主連盟による第1党、第2党の連立政権であるため政治基盤は安定している。財政再建のためホルン政権は95年3月に通貨切り下げ、輸入課徴金導入、社会福祉の大幅カット、等を含む経済緊急措置を発表している。同措置については国内に反対勢力もあるが、長期的にはハンガリー経済回復に寄与するとして欧米諸国やIMFは支持を表明している。
    また、ハンガリーの外交政策における優先事項はEUおよびNATO加盟と近隣諸国との友好である。ハンガリーは、すでに欧州協定に調印しており、94年4月にはEU加盟申請を行なっている。ハンガリーは安価で質の高い労働力が豊富であることに加え、政治・社会制度が安定しており、投資関連法規・税制等が整備されていることなどにより東欧諸国への外国投資の約半数がハンガリーへの投資である。わが国からもハンガリーの民主化・市場化の推進のための幅広い援助を実施している。

  3. 仁坂通産省欧州アフリカ中東課長 説明要旨
  4. 1. 欧州経済の現状

    本年1月にEUは15カ国に拡大し、名目GDPは全世界の30%強、域内を含む貿易総額は40%を占める巨大統合市場となった。経済情勢も93年のマイナス成長から、94年は 2.7%、95年は 3.1%成長と回復する見通しである。しかし、現在の経済成長は企業の合理化によるところが大きく、失業率は10%を超えている。93年には「成長、競争力および雇用に関する白書(ドロール白書)」が発表され、
    1. 大規模インフラ整備(TEN)への投資、
    2. 労働コスト負担の軽減、
    3. 労働市場の流動化、
    4. 職業訓練・教育の強化、
    などの雇用創出のための施策が打ち出された。

    2. EUの拡大と深化

    EUは、95年1月に15カ国に拡大したほか、マルタ、サイプラス、中欧諸国がすでに加盟申請を済ませている。経済・通貨統合に向けての5つの基準(インフレ率、長期国債金利、財政赤字、政府累積債務、為替レート変動)を全て満たしている国はなくなり、99年1月の欧州中央銀行創設、単一通貨実現に対して懸念が生じてきている。

    3. 中欧情勢

    中欧諸国は89年からの急速な市場経済化による混乱のためマイナス成長を続けていたが、93年から94年にかけて回復しつつある。ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキア、ルーマニア、ブルガリアはEUとの間に欧州協定を締結しており、EU加盟を最終目標としている。欧州協定は自由貿易地域を目指すものであり、EU加盟国からの輸入関税がゼロになるが、日本など第三国からの輸入品には関税が課せられるため、日本企業がEU企業に対して不利な立場に置かれることが懸念される。
    ハンガリーやポーランドでは投資した企業に対しては税制上の優遇措置を与えているが、相対的に市場を開放していくことが外国投資拡大のためには必要である。中欧諸国は、安価で質の高い労働力があり、オーストリアやドイツ市場に近く、東欧・ロシアへのゲートウェイとしての利点もあるため、欧州戦略の一環として中欧への投資を考えて欲しい。


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