創造的な人材の育成に関する懇談会(座長 末松副会長)/ 5月30日

大学改革の課題と企業への期待


当懇談会では、創造的な人材の育成に向けて、わが国の教育システムのあり方や企業の果たすべき役割について有識者と意見交換を進めているが、今回は、東京大学の天野郁夫教育学部長、慶應義塾大学の相磯秀夫環境情報学部長より、大学改革の課題と企業への期待について話を伺うとともに意見交換を行なった。以下はその概要である。

  1. 天野先生説明要旨
  2. 1.大学の変革

    わが国の社会構造の変化に伴い、平等主義からイクセレンス(優秀さ)確立への移行、集団主義から個人主義への移行が求められているが、大学を競争的なシステムに変えていくためには、大学の機能分化、教員や学生に対する新しい報酬システムが不可欠である。
    例えば、大学の教育費・研究費を、ベーシック・ミニマムは確保しつつ、競争的に配分する必要があり、そのためには、費用を負担する主体の多様化が求められる。
    また大学の教員が担っている、研究、教育、管理運営などさまざまな役割を分化させていくことも重要であり、それを進めていくために、多元的な報酬システムを確立しなければならない。
    さらに、学生に対しては、大学入試以外にイクセレンスを証明する仕組みを確立し、その結果に基づいて、奨学金や入学の特別枠といった報償を与えるシステムを導入する必要がある。
    ただし、こうした改革を進めていく上では、どの部分について、どの程度のスピードで改革を行うのが、わが国にとって最も望ましいのか、十分に検討しなければならないことを忘れてはならない。

    2.企業の変革−大学変革のために−

    大学が変わるためには、企業の変革も必要である。
    採用面では、学校歴ではなく、専門的な学習歴など人物の能力を重視すべきである。採用期間の繰下げも、是非検討すべきである。また、優秀な学生や社員を、性別を問わず、能力と業績によって、処遇するシステムを確立する必要がある。
    さらには、企業の資金を、研究だけでなく、教育そのもののために支出していくことも、大学に競争的な要素を導入していく上で意義があろう。

  3. 相磯先生説明要旨
  4. 1.これからの時代に必要な能力

    これからの時代においては、与えられた問題を解決するだけでなく、自分で未知の問題を設定する能力が求められる。そのためには、大学において、知識の習得、継承に加えて、問題解決のための技能の習得、知識の再編成を学ぶことが必要である。また、個別学問の追求に加えて、横断的な学問領域への挑戦も、大学の大きな使命である。
    これらの課題に取り組む上では、自然言語能力、数理解析能力、問題発見・解決能力、心身ウェルネス管理能力などさまざまな能力が求められるが、特に重要なのが、電子メールの活用、公共・商用データベースへのアクセスなどの情報リテラシー能力(読み、書き、話し、ソロバン)である。最近では、Audio-Visual装置の操作やマルチ・メディアによるプレゼンテーション技法も大切であると考えるようになった。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでは、入学後ただちに情報リテラシー教育を行なっている。

    2.求められる教育環境の充実

    日本の大学は、学生に個性・独創性・国際性を要求するが、それをはぐくむ教育環境を用意していない。湘南藤沢キャンパスでは、分散型のマルチ・メディア・ワークステーション、インターネット、データベース、パッケージソフトウェアなどのコンピューティング環境を整備し、24時間使えるようにしている。学生が変わっていく上で、教育環境の充実は、大変重要な要素である。

    3.問題発見・解決型教育の効果

    湘南藤沢キャンパスでは、豊かな教育環境のもとで、情報リテラシー教育をベースとした問題発見・解決型の教育を行なっている。その結果、学生は、個性・独創性を発揮しており、そのことが、満足感の体得や責任感の育成につながっている。また、チームで問題解決に当たることから、協調性も生まれている。予想以上の効果が上がっていると認識している。

  5. 懇談時に出された主な意見
    1. 大学の教育が不十分なために良い人材が生まれないという側面もあれば、企業が採用にあたって学生の能力をきちんと評価しないために、学生が大学で勉強しないという面もある。また、大学入試と高校教育の関係も同様である。こうした悪循環を断ち切っていく必要がある。

    2. 卒業時あるいは企業の採用時に、学習歴などの能力を評価する仕組みがないと、学生は勉強する気を起こさない。

    3. 企業も、人と時間をかけて、人物の能力を評価していくべきである。手間をかければ、それに見合った能力のある人材を選抜することができるのではないか。

    4. 電子メールを活用すれば、社会的な地位に関係なく、意見交換を行うことが可能となる。組織においては、トップも、現場の情報に触れることができる。

    5. コンピュータありきの教育を行うと、コンピュータに頼ってしまい、創造性を発揮できない人間になるおそれもある。コンピュータはあくまでも手段と捉えるべきである。


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