新産業・新事業委員会企画部会(部会長 古見多香郎氏)/6月5日

バイオベンチャー企業化の条件と産学協力の戦略的重要性


アメリカでは、さまざまな分野でベンチャー企業が活発に誕生・成長しており、経済の再活性化と雇用機会の創出、国際競争力の向上に大きく貢献している。そこで、新産業・新事業委員会企画部会では、アムジェン株式会社の吉田社長、東京大学総長補佐兼同大学医科学研究所分子生物学研究室の新井教授を招き、わが国バイオ企業をめぐる現状と将来展望等について聞いた。

  1. 吉田社長説明概要
    1. アメリカ経済の再活性化には、ベンチャー企業、特に、マイクロソフト、インテル、オラクルといったソフト・通信関連とアムジェンに代表されるバイオ関連のベンチャー企業が果たした役割が大きい。
      雇用面をみても、アメリカに於ける大企業(フォーチュン500社)の雇用者数は1981年から1988年の間に約200万人減少している一方、その間新興企業によってその10倍の約2000万人の新規雇用が創出された。

    2. 高齢化社会の到来の中で、国は医療費抑制の柱として薬価抑制・新薬認可の慎重化に向かっており、わが国の製薬産業は厳しい事態を迎えようとしている。医薬品産業が健全に生き残るためにも、業界の一層の活性化が必要であり、そのためにはバイオベンチャーの企業化が有効である。バイオベンチャーの企業化のためには、独創的なアイデアに加えて、
      1. 資金、
      2. 人材の流動性、
      3. 企業文化、
      が必要である。

    3. バイオ企業は巨額の研究開発費を必要とし(1つの新薬に平均250億円)、設立してから何年間かは利益を上げにくい業種である。米国AMGEN本社の場合も、最初の売上げを出すまでに8年かかった。しかし、その4年後には独立したバイオテクノロジー企業としてはアメリカ最大規模にまで成長を遂げた。わが国においても、株式店頭登録基準にある利益基準を廃止し、赤字会社の公開を認めることにより、アーリーステージのベンチャー企業、研究開発型、知識集約型企業の資金調達の道を開くべきである。ちなみに、米国AMGEN本社の1993年の売上高は14億ドル(1$=110円で1511億円)、純利益3億6300万ドル(389億円)、研究開発費は2億5500万ドル(275億円)である。この数字を日本の製薬会社と照らすと、売上高で大日本製薬を抜き、中外製薬とほぼ肩をならべて第9位、純利益では武田薬品を抜き、第1位となる。

    4. この実績を支えたのは優秀な従業員である。アムジェン社が初めて製品を出した頃にすでに約500名の従業員がいた。アメリカに特有の人材の流動性の高さが、アムジェンの草創期を支えたといっても過言ではない。

    5. アムジェンには固有の企業文化がある。それは、個人の尊重、オープンなコミュニケーション(会議には誰もが参加できること)、新しいことへの挑戦を奨励すること、失敗しても素早い対応をすればその失敗がマイナスにならないこと等であり、こういった企業文化が、アムジェンの成功を支えた大きな要因となっている。

    6. バイオベンチャー企業育成のためには、
      1. 科学者の流動性を高める仕組みづくり、
      2. コンセプトに投資するベンチャーキャピタルの出現、
      3. キャピタルゲイン早期実現のための資金循環サイクルの確立、
      4. 初等教育制度の見直し、
      5. 分社化の促進、
      6. 「リスク・テイキング」
      が必要である。

  2. 新井教授説明概要
    1. 日本はこの30年あまり、教育と研究への基礎的な投資を怠ってきた。そのため、大学では必要な人員の不足や狭溢な施設の老朽化が進行した。研究環境を大胆に改善し、大学のキャンパスに冒険的研究を行うベンチャー的なグループを形成し、創造的研究を展開する必要がある。そのためには、企業側の考え方の転換と共に、大学側も経営の心をもつことが必要である。これは、官尊民卑の土壌を堀り崩し、個人の自由な発想を発揮する環境を作るという、国の体質改善にも繋がる歴史的課題である。

    2. バイオテクノロジー分野においては、若手研究者の流動性を増すために、産業界の協力により、大学を中心にポストドクトラルフェロー制や、若手研究者へのグラント制を創設することが望まれる。また、大学や研究所に寄付講座や寄付部門を設置し、先端的な基礎研究や基盤技術の開発を行うことも有効である。さらに、大学のキャンパスを活用して民間との共同研究を行うリサーチパークを設けることも期待される。東大も柏キャンパスを創設するが、そこに新たなリサーチパークを作れれば、その意味は大きい。各大学の行う自己決定を尊重しつつ、これらの課題を速やかに達成することは、大学と産業界に課せられた重要な責務である。大学と企業を結ぶ、開かれた先端研究体制のもとで、生命科学と医科学は、情報科学と融合し、新しい物質化学とシステム制御技術を生み出し、人間の科学に基づく新たな産業を開拓する可能性を秘めている。


アムジェン株式会社(日本法人)

米国アムジェン社の100%出資により、平成4年に設立(資本金4億7500万円)。主力商品、EPOGEN(赤血球を増やすバイオ医薬)、NEUPOGEN(白血球を増やすバイオ医薬)は安全性、有効性、有用性が世界的に認められた。
1995年4月から東大医科学研究所に5年間で7億6000万円を寄付し、アムジェン講座を開設した。

東京大学医科学研究所

1892年、北里柴三郎を初代所長として設立。現在は、癌ウイルス研究部、臓器移植生理学研究部、細胞遺伝学研究部、分子生物学研究部、ヒトゲノム解析センター、エイズ診療部等が設置されている。


日本語のホームページへ