中国経済セミナー/6月12日

中国経済は今後とも成長を続けるが、解決すべき問題も多い


経団連とオーストラリア国立大学豪日本研究センター(所長 ピーター・ドライスデール教授)では、東アジアの発展という基本テーマの下、昨年9月から年1〜2回のペースでセミナーを開催している。同大学の最近の中国経済研究は目覚ましく、本年3月パリで開催された「第1回OECD−中国政策対話」では、そのバックグラウンド・ペーパー作成を担当するなど、OECDの対中認識形成に大きな影響を及ぼしている。そこで、経団連では日中豪の中国専門家を講師に標記セミナーを開催し、中国経済の現状と今後の展望につき議論した。経団連側からは、春名和雄評議員会副議長はじめ約100名が出席した。

1.発言とコメント

  1. 中国がWTOに加盟するために
    ―ドライスデール教授発言要旨
    1. 中国をいかにしてWTO体制に参加させるかが課題である。その意味で、本年3月に開催した「第1回OECD−中国政策対話」は重要な一歩であった。
    2. 中国のWTO加盟が難航している理由として4つあげられる。
      第1に、国内の既得権階層が改革に反対していることである。第2に、各国の対中外交政策はアメリカのリーダーシップに依存しているが、アメリカの対中政策は戦略的アプローチを欠いている。第3は、先進諸国が中国製品との競合を懸念している点である。第4に、中国がWTOに加盟するためには自ら解決すべき問題が多数あり、それが中国の交渉能力を超えていることである。
    3. この問題で対応を誤ると、中国をWTOの枠外に追いやることになり、中国の産業発展のみならず、世界経済にも悪影響を及ぼす。

  2. 経済の国際化が改革を促している
    ―ガーノー教授発言要旨
    1. 東アジアはこの10年間で急成長を遂げた。中国では78年以降、輸出の伸びが鉱工業生産の伸びより大きく、貿易が成長の重要な要因として認識されるようになった。現在は、中国の経常収支が均衡しているため、海外との貿易摩擦は発生していない。
    2. 海外からの直接投資もこの数年急増し、中国の経済成長に大きく寄与した。他方、沿海地域では労働集約型産業が集中した結果、労働力不足、賃金上昇が生じており、投資は内陸部に移りつつある。
    3. 中国では各種規制がコスト増につながり、国際競争力を維持できないことから、規制緩和が推進された。経済の国際化が改革を促した事例である。今後は、成長に寄与できなくなった国有企業の抜本的改革が、重要課題となる。

  3. 丸山アジア経済研究所室長コメント
  4. 中国の動きは慎重に見守る必要がある。80年代の成長は初期条件の低さによるキャッチアップ効果が現れたものであり、これが今後も維持される保証はない。むしろトウ小平以後のリーダーシップ、インフレ、国有企業改革、失業率の増加など不確定要因が多い。中国経済は国際経済に統合される過程で東アジア経済発展の制約要因となる可能性があり、関係諸国の適切な対応が望まれる。

  5. 21世紀初頭に中国は世界最大の市場に
    ―林毅夫北京大学教授発言要旨
    1. 中国では50年代以降、計画経済下で重工業が育成されてきた。経済改革により企業に裁量権が認められるようになったが、収益性の高い軽工業に投資が集中した。投資資金としては、企業自身の内部留保、対外直接投資が中心となっている。
    2. 今後は開放体制下で経済成長を維持しつつインフレと腐敗を抑制し、一連の改革(外資導入方式の見直し、為替の一本化、国営銀行の民営化、金利の自由化等)を進める必要がある。国有企業の規模は今世紀末までに、対GNP比で英仏と同じ程度にまで縮小するだろう。改革がうまくいけば、21世紀初頭には中国は世界最大のマーケットとなろう。

  6. 大背戸日本輸出入銀行部長コメント
  7. 中国の経済成長が今後とも持続するかどうかは疑問である。少なくとも、
    1. 社会主義市場経済の概念の整理、
    2. 政策の透明性確保、
    3. 政治的リーダーシップの安定、
    4. 安定的なマクロ経済運営、
    5. 国際協調路線の定着、
    6. 人口、食糧、エネルギー問題への対応、
    7. インフラ整備
    などの課題が解決されなければならない。

  8. 日本は北風ではなく太陽になるべし
    ―矢吹横浜市立大学教授発言要旨
    1. 中国には成長を持続させる好条件が残っている。例えば、旺盛なハングリー精神がある。また、国際的な相互依存関係も拡大している。問題点の改善を中国に迫りながら、市場経済への移行を手助けする必要がある。
    2. 中国の貿易規模は、台湾、香港を合計すると日本を上回る。こうした現実に日本は前向きに対処すべきである。
    3. 台湾の経済発展と民主化は中国の手本となる。日本としては中台関係には介入せず、現状維持に努めるべきである。中国の民主化に対する強硬姿勢は弱さの象徴と見るべきで、日本はイソップ物語の「北風」よりも「太陽」役に徹し、中国の民主化を促すべきである。

  9. ガーノー教授コメント
  10. 中国の改革の原動力は、他の東アジア諸国に遅れているという認識だった。また、中国の指導者は改革なくして中国の発展はないと認識しているので、改革はうまくいくと思う。

  11. 吉田日商岩井専務コメント
  12. 中国は21世紀もアジア太平洋地域の成長の中心であり続けるだろうが、所有権の概念、生産性向上と余剰人員の問題、社会福祉システムの見直しなど解決すべき課題も多く抱えている。

2.質疑応答

中国の食糧問題については、「オーストラリアなど食糧輸出国には、むしろビジネス・チャンスがある」(ガーノー教授)、「輸入、国内輸送のためのインフラが未整備なので、基本的には自給が必要」(丸山室長)、「自給は技術的には可能だが、経済的に最適ではない」(林北京大学教授)等の意見が出された。


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