創造的な人材の育成に関する懇談会(座長 末松副会長)/6月19日

初等・中等教育、家庭教育のあり方と企業への期待


創造的な人材の育成に関する懇談会では、創造的な人材を育成する上での企業・経済界としての役割を検討し、実行に移すことを目的に、本年2月以来、教育関係者等からのヒアリングを重ねてきた。第5回会合では、エッセイストの見城美枝子さんからお話しを伺うとともに、懇談した。見城氏は初等中等教育、家庭教育のあり方と共に「児童・生徒の企業・職場見学や、教員の企業研修などに協力してほしい」と企業への期待を述べた。以下はその概要である。

1.見城氏説明要旨

1.教育制度とひずみ

「教育」には多様な意味があるが、子供にとっての教育とは「ふるさと」、すなわち知的な意味での原点であると思う。
昔は小中高校と同じ顔触れの仲間で一緒に進学し、学校がふるさとのひとつとなっていたが、今の学校は、偏差値による輪切りにより、ふるさと言うにはほど遠い状況にある。
子供たちを余裕のある環境で育むために、中高一貫教育の公立校の導入等、教育制度を柔軟に考えて改革していくことが必要である。

2.企業に望むこと

偏差値は本来目安のひとつにすぎないにもかかわらず、有名大学は偏差値で評価されることを良しとし、企業も有名大学出身者を採用する。大学や企業が行動様式を変えて、学生をさまざまな角度から評価すべきである。
また、今の大人は、自分たちは国や企業をバックに安定した生活をしてきたにもかかわらず、次の世代の子供たちに対しては、今後は国や企業の保障はない、自分の努力次第であると言う。これでは、子供は将来への夢を持てない。なぜ考え方を変えざるをえないのか、子供たちにきちんと説明し理解させていくことが必要である。現代社会の授業で教えるのも良いだろう

3.国の学問水準

従来の「シチズン」中心の時代から「ネチズン」とよばれるネットワークの市民が中心となる時代へと時代の枠組みが大きく変化するなかで、情報化の面における国際的な競争も激化しており、国としての学問水準は高く維持しなければならない。わが国の学問的水準を世界水準にするためにはどうするべきかを検討する必要がある。特に、わが国の大学・研究機関の充実・改善が重要であり、産学共同の良い面を活かして改善を図っていくべきである。

2.懇談・意見交換概要

1.初等中等教育の現状

  1. 今の小学生は、塾通いの過熱により生活の余裕が失われ、さまざまな人生体験が不足している。また、少子化など家庭環境が様変わりするなかで、自己中心的な行動や、主体性、意欲不足が顕在化している。
  2. 中学の3年間は、子供が自立を獲得する上で重要な時期であるにもかかわらず、時間に追われ、やりたいことに取り組むことができない。また、社会との接点も失われている。
  3. 高校の3年間も、生徒を偏差値で輪切りにすることで、自分の能力の限界を思い知らせるためにしか機能していない。
  4. 教育を改革するには、教員自らも変わらねばならない。しかし、今の教員は時代の変化に対応できず、現状維持指向で改善意欲・向上心が感じられないという指摘もある。

2.今後の取組み

  1. 創造的人材育成には、教室内の授業だけでなく、体験が重要な教育活動となる。企業に見学に行くなど、企業や地域との連携を図り、児童・生徒にさまざまな経験・体験を積ませて、社会との接点を広げることが必要である。
  2. 社会との接点を作る上で、学校で進路・職業指導を行い、将来の職業像をイメージさせることも大切である。
  3. 魅力的で特色ある学校を作るために、地域と一体となって改革を進めるべきである。
  4. 教員の終身雇用制度の弊害を取り除き、教員の緊張感を高めながら、意欲をかき立てるような方策が必要である
  5. 教員が仕事や社会の実情を知る上では企業派遣、ボランティア等の研修制度が効果的である。また、長期休暇中における任意研究や、勤続10年、15年研修といったことも今後とり入れられるべきである。
  6. 児童・生徒の目標たりうる人が教壇に立つことが重要であり、教員の採用面では、企業出身者、海外経験者等を含め幅広い人材を集めることが望まれる。

3.企業への期待

  1. 企業のブランド重視の採用は大きな問題である。学生1人ひとりの個性、能力を重視し、大学名だけにこだわらない採用システムに変えていくべきである。
  2. 児童・生徒の企業・職場見学や、教員の企業研修などに協力してほしい。また、生きた教材を作るためにも企業の協力が不可欠である。
  3. 家庭6割、地域2割、学校2割で教育に責任を負うべきである。家庭の教育を母親任せにせず、父親の教育活動への参加を促すために、社員教育で家庭教育の重要性を啓蒙してほしい。

4.ボランティア活動の重要性

  1. 日本の教育には宗教教育がなく、社会的責任感を教わる機会がない。これに代わるものとして、ボランティア活動を推進していくべきである。
  2. 学校も企業もボランティア活動の重要性を認識してはいるが、時間もなく、リーダーとなる存在もいない。学校に週5日制が導入された際は、土曜日にボランティアを体験させる機会 (名付けてVESプログラム、Volunteer Egg Saturday) を設けてはどうか。


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