社会貢献情報交流専門部会(部会長 土井智生氏)/6月13日

公的介護保険の導入を視野に入れた高齢化対策と企業との関わり


社会貢献情報交流専門部会では、94年7月から社会貢献に関する有識者からのヒアリングを行なっている。今後は、福祉の問題に焦点を合わせてヒアリングを行なっていく予定であり、今回は、奈良女子大学生活環境学部の山井和則専任講師から、日本の高齢者介護の現状と公的介護保険が登場した背景などについて説明を聞くとともに意見交換を行なった。

1.山井和則氏説明要旨

1.高齢者介護の現状

  1. 一般的に老後の3大不安として、年金、医療、介護といわれている。ここ2〜3年の調査では、いずれも年金よりも、介護の問題が最も深刻という結果がでている。
    一方、国の高齢者関係給付費(1992年度)の内訳をみると、年金は25兆円(77%)、老人医療費は6兆7,000億円(21%)介護に使われている老人福祉費は、わずか7,500億円(2%)でしかない。
    このように、国民の感情と資金の配分がアンバランスとなっている。

  2. 日本は、寝たきり老人が世界一多い。日本では、家族が他人の手を借りて介護することは、「恥」「親不孝」という意識が強く、家族だけで介護を抱え込んでしまう。その結果、老人を寝かせきりにして、寝たきり老人が増えるのである。

  3. 日本には約100万人の痴呆性老人がいるといわれている。そのうち、75万人は在宅、25万人は病院か老人ホームで暮らしている。老人ホームには2〜3年待たないと入れないため、待てない人は、主に慢性疾患の高齢者が入院する「老人病院」に入る。
    老人病院にいる約20万人のうち10万人以上が、入院治療が必要ない「社会的入院」といわれている。そのため、日本の平均入院日数は39日を数え、欧米に比べ突出している。つまり、日本では、老人ホームは2〜3年待ち、ホームヘルパーの数が少ない(スウェーデンの1/25)、家族は介護できない、という理由から家族は病院を頼り、社会的入院が増加している。

2.グループホーム

スウェーデンは、家庭的環境が老人の痴呆を和らげることから、少人数の老人とヘルパーが共同生活をする施設「グループホーム」を痴呆性老人のために取り入れている。ここでは、老人に家事などの役割を与え、生きがいと誇りを持たせる。その結果、脳が活性化され、痴呆症状は和らぐ。
日本でも厚生省が全国8カ所でグループホームのモデル事業を行なっている。運営費は1人月約40万円、そのうち自己負担は10万円、残り30万円はホームの負担である。老人病院でも約40万円かかるため、費用的には変わらない。痴呆性老人にとっては、病院で入院を続けるよりも、生きがいを持てるグループホームで生活する方が望ましい。

3.24時間巡回型ホームヘルプ

厚生省の高齢化対策の切り札として「24時間巡回型ホームヘルプ」がある。家族にとって介護で最も苦労することは、夜中のトイレ誘導と朝起きてからの介助である。これまで、ホームヘルパーの派遣は、昼間のみであったが、この制度を導入することにより、朝、昼、夜の24時間、日曜日でもホームヘルパーを派遣することができる。
福岡市にある(株)コムスンという会社は、24時間巡回型ホームヘルプを厚生省、シルバービジネス振興会からの民間委託として取り組んでいる。介護中心で、1日数回、1回につき20分、いつでも訪れる。本人だけでなく家族も支えるという意味は大きい。費用は月約21万円で、老人ホームの約25万円、老人病院の40万円と比べても安い。
このモデル事業から、
  1. 老人がこぎれいになり、自立心を取戻した、
  2. 介護者が元気になり、介護者と老人の共倒れが防げた、
  3. 費用が安い、
ということが判明した。

4.公的介護保険

過去25年間の年金、医療の給付費の推移をみると、10倍以上伸びている。一方、介護の給付費は伸びていない。これは、年金、医療が保険財源であるのに対し、介護の費用が一般財源のためである。一般財源を増やすには増税ということになる。しかし、国民は増税分が確実に介護に使われるかという不安を抱き、増税には納得しないだろう。したがって、いつまでたっても病院にしかお金が流れない。
そこで、介護にもお金が流れるしくみをつくるために登場したのが「公的介護保険」である。どの国においても介護の財源を税金とし、医療を保険とすると、医療偏重の問題が生じる。そのため、公的介護保険を導入し、介護の財源を医療と同じく、保険に合わすことが必要である。

5.企業との関わり

  1. 公的介護保険が導入されると、自治体からの民間委託が増える。(株)コムスンのように民間から良質の在宅サービスを提供するなどのシルバービジネスの需要が高まる。
  2. 公的介護保険で介護が100%カバーできるわけではない。プラスαの部分で民間の介護保険の需要が高まるであろう。
  3. 福祉のすそ野を広げ、介護の現実を知る意味で、ボランティア活動を広げてほしい。
  4. 公的介護保険導入に際しての問題点は、保険料が労使折半になることである。ドイツではこの問題を議論し続け、導入まで20年かかった。しかし、介護の現状を解消するためには、公的介護保険を導入しなければならない。企業もこの点を理解していただき、導入の実現を図ってほしい。

2.質疑応答

問:高齢者介護の分野で、ボランティアがどの程度まで対応できるのか。
答:ボランティアは専門性、知識に限界がある。また、行政も必要な人手をボランティアでまかなうという動きになることも危険である。話相手や簡単な介護であれば対応できるのではないか。

問:シルバービジネスの位置づけは、どのようなものか。
答:一番大きな位置づけは、民間委託だろう。資金は公から流れ、サービスの提供はシルバービジネスが行う。公的介護保険が導入されても、自治体ではすぐに対応できるとは思えないので、シルバービジネスの需要が高まるのではないか。


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