農政問題委員会・合同部会/6月26日

農業基本法見直しに向けた諸課題について懇談


昨年10月のウルグアイ・ラウンド農業合意関連対策大綱を受け、政府では、農業基本法に代わる新たな基本法の制定に向けた検討を着手することにしている。これに対応して、農政問題委員会・合同部会(山崎誠三農政部会長/浅田健太郎食品工業政策部会長)としても本問題に関する検討を行うこととし、その第1回目として、千葉経済大学の唯是康彦教授を招き、農業基本法見直しに向けた諸課題について説明を聞くとともに、懇談した。

1.唯是教授 説明要旨

  1. 戦後農政の問題点
    1. 1961年に制定された農業基本法は、農地改革によって多数創出された自作農が、他産業と同等の所得を確保できるような「自立経営」農家の育成を目標としている。その手段として、需要増大が見込まれる農産物を「選択」して栽培するとともに、農業従事者の減少を見通した上で、農業規模を「拡大」して生産性を向上するという、「選択的拡大」が考えられていた。
      しかし、需要増大が見込まれる農産物の日本風土への適合性や農業就業者の質に関する検討が不足していた。その結果、生態系上の問題が生じているとともに、農業従事者の高齢化により、規模拡大を図って生産性を向上することが難しくなっている。

    2. また、高度経済成長によって、農業と他産業との所得格差は一層拡大した。これに対し政府は、戦時中の食糧の全量管理を目的とした食糧管理制度のスキームを活用し、減反政策を強制するとともに、行政価格を高く設定した。その結果が現在の大きな内外価格差を生んだ。
      今後、社会の安定化を図るためには、食料の消費者価格を引下げることが重要な課題である。

  2. 新食糧法の施行
    1. 食糧管理法が廃止され、新食糧法が本年11月から施行される。食管法廃止の契機となったのが、1993年の平成コメ騒動であった。
      1993年は、冷害によってコメ不足となったが、政府管理米市場に比べて、自由米市場の方が国産米の集荷能力が良く、現状に則していることを証明した。また、外国産米の輸入にあたっては、食管制度の全量管理の原則に基づき、政府が不足分を予測して輸入したが、政府の予測ミスとともに、輸入米価格の設定が高すぎたこともあって、90万tのコメが余った。他方、政府はこれまで、食糧安保の観点から食管法が必要との主張を行ってきたが、実際には、1993年10月段階のコメ在庫量は23万tしかなく、食管法体制が緊急時対応としても役立たないことが明らかになった。

    2. 新食糧法では、計画外流通米として従来の自由米が公に認められ、商社等大企業もコメの流通に参入できる。また、計画流通米の大宗は自主流通米が占めることになり、その価格は自主流通米価格形成センターにおける入札取引によって決定される。

    3. しかし、豊作等における価格の安定を図るため、自主流通法人による在庫操作が義務づけられており、これが自主流通米の価格形成に大きな影響を与えるおそれがある。

    4. また、政府米の買入価格は、自主流通米の価格動向を反映するとともに、米穀の再生産を確保するように設定することとされているが、零細な兼業農家を含め、米穀の再生産を確保することとすると、従来の生産費・所得保障方式と何ら変わらなくなるおそれがある。

  3. 食糧の安全保障の問題点
  4. 新食糧法に基づく150万tの備蓄は、2カ月半の流通量にしか相当しないことから、短期の食糧危機対策に過ぎない。したがって、別途、長期の食糧危機対策を講じる必要がある。
    長期の食糧危機が生じた場合には、コメを中心とした伝統的な日本食へ回帰せざるをえず、コメの1人当たり消費量は増加する。現在のコメ自給率を維持しても、危機の際には足りない。
    したがって、食糧の安全保障上は、コメの自給率確保ではなく、平時においても農業生産基盤を確保することが重要である。

  5. 不足払い制度の導入
  6. 内外価格差を是正し、社会の安定化を図るため、食料の消費者価格を引き下げる必要がある。しかしながら、安い価格水準では農業従事者がいなくなる。そこで、農業の再生産を可能とする価格として目標価格を定め、目標価格と市場価格との差額を国が直接保障する「不足払い制度」を導入すべきである。しかし、財政制約もあり、不足払い制度の対象者を、事業規模を拡大し、生産性を向上することが可能な専業農家に限定する必要がある。
    その一方で、兼業農家に対しては、生産組織を中心とした協業体制を整備し、その生産組織に補助金を与えることにすべきである。1年に1回しか使わない農機具等は、生産組織が大型のものを用意し、兼業農家の作業を請け負えばよい。そうすることによって、兼業農家のコストが削減し、一家全体としての所得を引き上げることができる。

2.懇談

経団連側:
  1. 農協を農業者の相互扶助組織として再編するには手遅れであり、総合商社化した方が良いのではないか。
  2. 食品工業にとっては、コメよりも砂糖や小麦等の農産物の内外価格差の方が重要な問題であり、こちらを先に解決すべき。
  3. 食料の安全保障を考える際、単収の向上と裏作の活用が重要であり、圃場の大規模化や水田の水量調整のための技術改良を進める必要がある。

唯是教授:
  1. 食管法が農協の経済基盤であり、農協が農林族の基盤となっていた。新食糧法への移行に伴い、農協は経済的機能に純化し、政治的機能は分離すべきである。
  2. 生産構造や流通構造に占めるコメの割合は大きいことから、コメの抜本改革から着手すべきである。コメを関税化した上で、不足払い制度を導入すべきである。


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