日本トルコ経済委員会(委員長 関 和平氏)/7月5日

最近の中近東情勢とトルコの政治・経済展望
−日本トルコ経済委員会1995年度定時総会−


日本トルコ経済委員会では、1995年度定時総会を開催し、1994年度事業報告・収支決算、1995年度事業計画・収支予算、ならびに末松謙一前委員長と河合良一元委員長の顧問への就任を承認した。
総会の冒頭、末松謙一前委員長が退任挨拶、そして関新委員長が就任挨拶を行い、引き続き外務省の法眼健作中近東アフリカ局長より、最近の中近東情勢とトルコの政治・経済展望について説明を聞いた。以下はその説明の概要である。

  1. 中東和平の進展
  2. ソ連邦の崩壊後、中東全域で大きな変化が生じている。好ましい変化として中東和平の進展と湾岸諸国の連帯の強化があるが、一方でイラン・イラクへの対応やテロの問題もある。
    イスラエルとその隣接5カ国の関係は着実に改善している。イスラエルとエジプトとは1979年のキャンプ・デービッド合意で国交を回復した。イスラエルとヨルダンとの間では、昨年10月に平和条約が締結され、パレスチナにも暫定自治が認められた。シリアとはゴラン高原の返還問題があるが、イスラエルはそのシリアへの帰属を認めており、返還方法をめぐり交渉が行われている。レバノンはシリアの影響下にあり、レバノン・イスラエル関係はシリア・イスラエル関係次第である。以上の2国間交渉は当事国にアメリカが加わる形で進められている。
    このような2国間交渉に加え、1992年1月より多国間協議が始まっている。多国間協議にはアメリカ、ロシア、日本、EU諸国等が中東和平を先取りする形で、環境、軍備管理、水資源、経済開発、難民の5つのワーキング・グループに分かれて活動を行なっている。日本は環境ワーキング・グループの議長および経済開発ワーキング・グループの中の観光委員会の議長を務めている。
    対パレスチナ支援はパレスチナの国作りを助ける意味があり、日本も資金と技術面での支援を頼まれている。中東和平は日本にも配当をもたらしており、かつてのようにアラブ・ボイコットを心配する必要はなくなってきた。
    中東諸国には、日本がクリーン・ハンドであり、この地域での経済協力、貿易・投資に指導力を発揮してもらいたいという強い期待がある。日本は中東和平に積極的に参加しており、もはや石油が欲しいから中東とつきあう時代ではなくなっている。

  3. 中東の不安定要因
  4. イスラム原理主義は、本来はイスラムの原点に戻ろうという考え方である。中東諸国では近代化により貧富の差が拡大しており、イスラム原理主義による体制批判と暴力が結びついたため誤解を受けている。アルジェリアでは選挙を通じて政権を獲得しようとしたイスラム原理派を軍部が力で抑えたため、現在は内戦状態にある。
    一方、イランにはイスラム原理主義に忠実な政権がある。アメリカはイランがテロを財政的に支援し、中東和平に反対しているという厳しい見方をしており、経済制裁を主張している。現在でも通常の商取引は行われており、問題は公的な分野である。日本はイランのダム建設に円借款の供与をコミットしており、第1期の約 380億円分は供与済みで、第2期と第3期をどうするかが問題である。イランにはラフサンジャニ大統領、ベラヤチ外務大臣のような現実派もおり、この勢力が伸びれば現実を踏まえた政策が採られると考えられる。
    イラクについては、国連決議により制裁が行われており、フランスがその緩和を画策したが失敗した。アメリカはイランとイラクの二重封じ込め政策をとり、両国により健全な勢力が出現することを期待している。一方、アメリカは国連の場でイギリス、アルゼンチンと共同でイラクの子供・女性に対する人道援助を提案したが、この提案はイラク側から拒絶された。

  5. トルコの政治・経済展望
  6. トルコは21世紀に向けて大きな可能性を有している。隣国にはイラン、イラク、シリアなど対応の難しい国があり、国内でもクルド民族の抵抗やイスラム原理政党の躍進といった問題を抱えているが、トルコが自由主義陣営の一員として培ってきた努力は実りつつある。EUとの関税同盟についても調印がなされた。
    また、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、キルギスタン等の旧ソ連のトルコ系民族の共和国が台頭していることもトルコにとり好ましい状況である。これら諸国は豊富な資源を有しており、トルコの活動領域は広がりつつある。また、黒海沿岸諸国で構成される黒海経済協力会議においても、トルコは中心的役割を果たしている。
    国内的には高いインフレ率や対外債務の問題があるが、トルコは西側の一員としての責務を果たすつもりであり、中東への睨みも効いている。21世紀に向けたトルコの発展の環境は整備されており、後はトルコ自身の取組み次第である。
    トルコは欧米志向であるが、中東にしっかりと足場を置き、そこで指導力を発揮しつつ、欧米諸国と協調しながら近代化を進める方針である。


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