創造的な人材の育成に関する懇談会(座長 末松副会長)/7月6日

今後の教育システムのあり方と企業の果たすべき役割
−これまでの議論の中間的総括−


創造的な人材の育成に関する懇談会は、今後のわが国を担う創造的な人材を育成するには、どのような改革が教育界・経済界にとって必要かを幅広い視点から検討し、改革を実行に移すことを目的として、2月以来教育関係者を交えて意見交換を重ねてきた。これまでの議論では、人材を育成する上で重要な役割を担う各部門が抱えている問題点や課題−知育偏重教育や学校歴重視の採用方針の見直し−などが指摘された。
今回は、これまでの議論を踏まえ、教育システムのあり方や企業の果たすべき役割、今後の検討課題などについて、意見交換を行なった。以下は、その概要である。

  1. 家庭・地域教育と学校教育の課題
    1. 活力あふれる経済社会を構築するには、企業にとって望ましい人材という狭い観点でなく、今後の社会変化に対応できる人材をいかに育成するかという観点が欠かせない。そのためには、学校教育、家庭・地域教育との連携を取り、改革を進めるべきである。
    2. 社会との接点がない親が、子供の進路を考えると、“観念”による判断、すなわちブランド指向にならざるを得ない。これを是正するためには、社会との接点を持つ父親の家庭教育への積極的参加が求められる。
    3. 創造力や多様性は、学校外の活動で身につくものである。そのために、学校週5日制を、隔週から拡大すべきである。
    4. 連休を増やして、家族が一緒に出掛けられるように、祭日の曜日指定を導入すべきである。
    5. 日本の教育では、紳士・淑女教育が欠如している。弱者への優しさ・文化的作法なしに、国際人は育たない。

  2. 大学教育の課題
    1. 学生が、勉強しやすい環境を整えるべきである。具体的には、学期のはじめに教授がシラバス(授業の進行計画・参考文献一覧等)を作成し、これに基づいて、授業を進めれば、学生も予習がしやすく、勉強に計画性が出る。
    2. 日本の社会システムは、人生50年時代のシステムである。人生80年時代になった今、教育は、長期的視野にたって行うべきである。何才までに大学を出るというのではなく、個人のペースに合わせて教育を受けられるような制度にすべきである。

  3. 企業の採用のあり方
    1. 日本の教育が膠着状態に陥っているのは、企業の責任が非常に大きい。大学や家庭が改革に取り組んでも、企業の採用が有名大学指向では、意味がない。これを改善するために、企業は採用に当たって「優」の数といった学習歴をよく見る必要がある。あるいは、卒業試験を導入し、その結果を基にして採用を行うことも一案である。
    2. 各企業が求める人材を明確に打ち出すことも必要ではないか。また、学生も同様に、自分の希望や、今までの活動をアピールし、双方が合致した段階で採用を行うべきである。
    3. 企業として、求める人材を明確に示すことは難しいが、必要な人材を必要なときに採用するシステムに変えていくことは必要である。
    4. 人との対話やコミュニケーションといった、人間にしかできない仕事は必ずある。それゆえ、企業もブランド指向で採用は行わず、人物本位で採用を行なっている。

  4. 企業経営・管理システムのあり方
    1. 経済界として、今後は、企業自身が率先して、各部門に与えている影響に考慮して、改革を実行に移す必要がある。具体的には、採用・昇進を含んだ人事システムの見直しや、父親の家庭教育参加への支援の必要性などが上げられている。
    2. セブンイレブン(7時から11時)で働いているのでは、父親は家庭教育に参加できない。企業はいかに短い時間で仕事を遂行するかという、時間管理の考え方を導入すべきである。
    3. 現在の育児・介護休業制度は、期限が1年間に限られるが、介護や育児は、1年では終わらない。半日就業など、育児・介護「就業」という考え方をとりいれて、働く女性への支援を進めるべきである。
    4. 企業人が大学院等で再教育を受けられる制度を、企業にも設け、やる気のある人材にチャンスを与えるべきである。
    5. 今後の日本で、終身雇用制度は長くは続かない。中高年が自らの足で立ち、新しい仕事を創出できるように、企業内での再教育を進めるべきである。
    6. 人材の流動性を高めるためには、社会保障制度のポータブル化を進めなければならない。退職金等を、転職しても引き継げるようにすることも考えられる。

  5. 組織における創造性
    1. 企業に限らず、社会全体に個性的・創造的な人材を受け入れない、縦割り社会の論理が横行している。創造的な人材を受け入れる寛容さが求められる。
    2. 社内の情報共有・流通をスムーズにし、縦割り組織の構造を見直すことで、日本のホワイトカラーの生産性を向上させるべきである。それには、パソコンなどの活用が欠かせない。
    3. 創造的な人材に、全員なれるわけではない。創造性の発掘を阻害している要因を取り除くことが最も重要な問題である。
    4. 協調性と創造性は相容れないものではないともいわれている。組織においては、ある程度の協調や忠誠は不可欠であるし、また、一般的な人の創造性は、組織のなかで現れてくるものである。ただし、組織への忠誠が全生活を覆うことは防がなければならない。
    5. 企業でも学校でも、創造性を発揮する喜びを享受できるような人材の育成を図るべきである。


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