日米包括経済協議に関する懇談会(座長:鳥海通商対策委員長代行)/7月26日

日米包括経済協議・自動車交渉の論点と経緯について坂本通商産業審議官から聞く


93年7月から2年余りにわたって行われてきた日米包括経済協議は、6月28日に自動車・同部品分野の合意に至ったことで最大の山場を越えた。同協議が経済界に与える影響は多大であり、経団連では適宜関係者から説明を聞いてきた。今回は、交渉を担当してきた坂本通産審議官より、自動車交渉を中心とした日米包括経済協議の経緯や内外の反応について聞くとともに懇談した。説明の要旨は以下の通りである。

  1. 日米包括経済協議の経緯と争点
    1. 包括協議は93年7月のクリントン・宮沢会談で、日米がそれぞれマクロ・ミクロの問題を克服し、世界経済の拡大に貢献することを目指して開始された。マクロでは、日本は経常収支不均衡の是正と、中長期的に内需主導型経済を目指すものであり、他方、アメリカは深刻化する財政赤字と貿易収支赤字の改善が課題であった。また、日本のミクロについては、市場アクセスを改善し輸入が伸びやすい環境を整備することが課題となった。

    2. 94年9月、日本は公共投資の上積みとともに、所得税の大幅減税(消費税率引上げの猶予期間の設定)など、景気刺激策を打ち出した。また、アメリカは5年間で5,000億ドルの財政赤字削減策を打ち出した。

    3. アメリカは当初から、マクロ・ミクロ両分野で数値目標の設定を求めてきた。例えば、経常黒字を対GDP比2%以下に抑制するとの要請があった。しかし、これは、国民経済の運営を他国との合意の上で進めることになり、主権との関係で受け入れ難い要請であった。セクター別交渉の際も、87年の半導体協定をモデルとした数値目標の要請があった。

    4. アメリカが数値目標を要求するようになった背景には、リビジョニストの影響がある。その主張は「日本との貿易交渉や輸入促進策は効果がない。日本市場は政府規制と目に見えないネットワークのためにアクセスができないので、特別ルールをつくって政府が輸入を増やすしかない」というものであり、プロセスを無視した結果主義的アプローチを産み出すこととなった。

    5. 日本市場にはわかりにくい側面もあり、外国企業だけではなく日本の新規参入者にも厳しいという意見があるが、どの国にも同様の問題がある。
      日本の経済環境の変化を見逃すべきではない。右肩上りの経済成長への確信が崩れ、経済成長を支えて来た慣行・制度を大胆に変化させないと将来に向けた経済の活性化が望めなくなっている。この認識は日本で広く共有されている。

    6. アメリカは12年ぶりに民主党政権となり、共和党との違いを強調する必要があるという政治的背景があった。ブッシュ政権の末期の日米構造協議は意義あるものであったが、これをクリントン政権は否定し、より直截的なアプローチをとろうとしていた。

  2. 自動車・同部品交渉の経緯
    1. 自動車交渉では、日本メーカーのアメリカからの部品購入額ないし毎年の伸び率について政府間のコミットメントを求められた。しかし、日本側は、実際の購入額はアメリカメーカーの競争力や為替など経済状況を踏まえて決めることであり、環境を整えることが政府の役目であると主張してきた。

    2. 過去の交渉の歴史をみると、日米関係の重要性を踏まえた上で、日本が譲って来た部分もある。しかし、合理性なき合意は当座は機能しても後で問題がでる。今回、国際通商を律するWTOを基準とする立場をとった。WTOは8年かけて各国が協力してつくった秩序であり、それに準じることは国際社会に対して説得力を持つ。

  3. 各国の評価
    1. アメリカが通商法301条に基づく制裁期限を発表した後、OECD閣僚会議やハリファックス・サミットなど多国間の場において、日本はWTOに沿った解決を望むという立場を明らかにした。各国は、できる限り通商問題は二国間で解決することが望ましいとしながら、「日本は経常黒字を減らし、市場を開放せよ」というアメリカの主張には共感を覚えるが、アメリカの一方的措置は非難されるべきだという立場をとった。

    2. 交渉の最終段階で行われたアメリカの世論調査では、日本市場の閉鎖性打破のためアメリカが301条に基づく制裁を発動することに7〜8割が支持を表明している。また、上院議員が制裁発動を支持する決議案も出された。アメリカの国内世論は国際世論と大きく異なるものであった。

    3. 日本の大幅な経常黒字が続いていることに対して世界の目は厳しい。理論的に説明できても、日本の市場が閉鎖的だというパーセプションがあるため、心してかかるべきである。参入の手続を明確にするために経済界の努力が不可欠である。

  4. 交渉上の課題
    1. 部品調達において顕著になった課題は、政府と民間の役割をどう明確に分担するかという点である。87年の半導体協定は、米国であたかも政府がコミットしたかのように受け取られ、それが301条制裁発動の原因となった。政府と民間の役割は異なるということを明らかにしていく必要がある。市場メカニズムの健全な機能のために、競争性あるプレイング・フィールドをつくるという政策を選んでいる。不必要な政府規制はなくすべきである。

    2. 自動車交渉の過程で各方面から批判があった。短期間の解決は不可能だったかという声もあった。しかし、合意の直前までカードを見せないのが交渉の基本である。
      日米関係は政治を含めて重要であり、それを壊してまで交渉するのは適切ではない。決裂した場合には日米関係のみならず世界経済全体に悪影響を及ぼすものになると承知していた。ただし、日本の経済状況から見て譲れないところもある。将来に向かって禍根を残す合意はさけるべきであり、結果的に日米両国の良識で解決されたことは喜ばしい。


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