コロンビア大学バグワッティ教授との懇談会(座長 糠沢和夫氏)/7月18日

日本は市場の浸透度を高めることが必要


国際貿易理論の第一人者であるコロンビア大学のジャグディシュ・バグワッティ教授は、経団連での懇談会において、「日本市場についてはオープンかどうかではなく、浸透度が低いことが問題だ」などと語った。
以下はバグワッティ教授の説明の要旨である。

  1. 日米通商交渉について
  2. 対等な国どうしの通商交渉は、相互主義・互恵主義が基本であるべきだが、これまでの日米交渉は歴史的にアメリカの一方的要求に終始していた。しかし、こうしたやり方をいつまでも続けることは出来ない。その意味で昨年の細川・クリントン会談と今回の自動車交渉で日本がアメリカにNOと言ったことは、不平等関係から早期に脱却する良い兆しだった。両国の関係が一時的に悪化しても、いずれは改善し健全なものとなる。
    日本市場に対する不満に基づき、貿易上のアファーマティブアクションを求めるやり方は間違っている。輸入目標を設定するやり方は管理貿易で、シェアを決めるのは市場である。問題がある場合は、何が障害かを具体的に特定して対応を図るべきである。
    自動車・同部品分野のような交渉はこれを最後にしたい。今後も具体的な問題について交渉を行なうのであれば、日本市場だけを問題にするのでなく、日米双方の市場を取り上げて議論することが必要だ。また、通商法301条の下での二国間協議には絶対に応じるべきでない。日本のフィルム・印画紙市場問題についても301条に基づかない冷静な二国間協議を行い、そこで合意が得られない場合はWTOの場で解決を目指すべきである。

  3. 日本市場に求められるもの
  4. 日本市場は異質であり、閉鎖的というイメージが世界中にすっかり定着してしまった。しかし、閉鎖性を議論する際にopenness(開放度)とpenetrability (浸透度)を区別する必要がある。日本側は対外的に市場開放策(market opening measures)を打ち出すが、これは日本自ら市場が閉鎖的であることを認めていることになる。日本市場は既にオープンであり、問題は外国企業にとって浸透が困難なことにある。
    日本市場への浸透の障害の1つは日本固有の文化、とりわけ言語だ。しかし、近年英語を話せる日本人は急速に増えており、文化的障壁は低くなりつつある。これに対して、アメリカ人は一般に個人主義で不寛容であるため、日本市場に対するフラストレーションを高めている。

  5. 求められる公取委の強化
  6. 日本は現在規制緩和に積極的に取り組んでいるが、その前になすべきは公正取引委員会の強化であり、競争政策の強化である。何が競争を促進するかは国によって違いがあるが、反競争的行為については厳しく対処すべきである。アメリカの競争政策からも学ぶことが多いのではないか。
    規制緩和の世界的な潮流は、基準・認証などの参入障壁を低めることである。安全性の観点から行なう検査について標本調査のあり方を見直していったり、外国製部品を扱っている工場を車検の認証工場として認めるなど、参入上の制限となっている規制を思い切って緩和していく必要がある。

  7. 率先してWTO強化を
  8. 世界の対日批判の原因は貿易問題ではなく、日本の国際社会に対する貢献の低さである。そこでAPEC大阪会議で18カ国の首脳が一堂に会し、世界中の注目が集まるこの時に、日本が世界のために何をなすのかをはっきりと示す具体的なプログラムを世界に提示すべきである。例えば官僚以外の有識者からなるハイレベルの委員会で具体案を検討することも一案ではないか。これまでのように良い政策であっても小出しに行うのであれば気にとめるものは誰もいない。
    日本は今こそ国際的なリーダーシップを取るべきである。輸出中心の小国の時代は決められたルールを与件として受容するだけで良かったが、経済大国となった今は受け身の対応だけでは世界から尊敬されない。国際機関に大金を出すだけでなく、国際的なルールや制度作りを行うべきである。日本はWTOを積極的にサポートし、ユニラテラリズムを排して多角的自由貿易推進の中心的役割を果たしていくことが求められる。
    来たるAPEC大阪会議では域内の貿易・投資自由化の実現を図るだけでなく、MFN(最恵国待遇)ベースで域内外無差別に自由化を推進するよう日本がイニシアチブを発揮することが期待される。そうなればAPECがWTOを強化することになり、今度の会議が実質的に最初のWTOラウンドとなろう。


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