日本ベトナム経済委員会総会(委員長 西尾哲氏)/7月19日

拡大インドシナ経済圏をめぐる最近の動き


ベトナムは7月28日、ASEANに正式に加盟した。これに先立ち、アメリカは対ベトナム国交正常化を発表し、ベトナムをめぐる国際関係は一段と脚光を浴びるに至った。そこで、日本ベトナム経済委員会では総会を開催し、創価大学の今川瑛一教授からベトナムをはじめとするインドシナ経済圏をめぐる最近の動きについて説明を聞いた。

  1. 総合開発に動くインドシナ
  2. インドシナ諸国を回ってみると、国境の存在感が薄いことを感じる。現地人は国境にとらわれず自由に往来し、同じ民族でも国境の両側に住んでいる。国単位での開発よりも、地域全体を総合的に開発する方が効率的だと実感する。
    中国、ベトナムが市場経済化を進めるに至り、地域全体が市場経済によって統合されようとしている。近隣諸国間の国際関係は改善に向かっており、特に88年以降、ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマー、中国を含む拡大インドシナ経済圏の可能性が注目されるようになった。日本企業の進出も最近特に目立つようになっている。「黄金の三角地帯」に中国も加わり、「黄金の四角地帯」となり、開発の可能性を秘めた地域として内外の関心を呼んでいる。
    中国雲南省はメコン川の上流にあたるが、同流域においては雲南省とラオスを中心に水力発電所の建設が進められている。
    インドシナには風光明媚な場所も多く、観光資源の開発も有望である。国境を結ぶ道路や橋の建設をはじめ、パイプラインの敷設など、各国を結ぶインフラがさらに整備されれば将来が期待される。

  3. 残された課題としての民族問題
  4. インドシナ半島の開発を進めるうえでの障害は少数民族間の争いである。8世紀以来、主要民族の間では激しい覇権争いが展開されてきた。特にビルマ族とタイ族はライバル意識が強く、相互に警戒して妥協することがない。歴史的に争ってきたので、国際協力だけを根拠に話し合いをすることに抵抗感を持っている。
    ベトナムは中国に対しても警戒心を抱いている。両国とも共産党政権であるが、立場が異なる。ベトナム共産党はフランス共産党の流れをくみ、旧ソ連共産党に近く、労働者が主体となる。一方の中国共産党はこれまでモスクワの指導を拒否し続けており、その主力は農民である。中国からみると、ベトナムは旧ソ連の手先として写ってきた。中ソ対立のときは、ベトナムは中立を守った。

  5. インドシナを取り巻く国際関係
  6. 7月11日、アメリカはベトナムとの国交正常化を発表した。ブッシュ大統領の時代からアメリカの経済界は国交正常化をアメリカ政府に求めてきたが、政府は今日まで踏み切れずにいた。一方、中国に対抗するためにベトナムはASEANに接近する必要があり、近くASEAN加盟が実現する。
    これまでアメリカは中国に接近しようと努めてきたが、人権問題や台湾問題などにより、両国の関係には軋轢が生じている。アメリカがベトナムと中国との紛争に介入することはないだろうが、ベトナムと中国との関係はこの地域の安定にとって重要な鍵を握っている。ベトナムがASEANに加盟しても、それによって中国との関係がさらに悪化することはないだろう。また、その他のASEAN諸国も、ベトナムと中国との争いには巻き込まれたくないと考えている。一方、ベトナムと中国との経済交流は、むしろ緊密になっている。国境付近の開発や交通網の整備などが進められている。ベトナム北部で発電した電気を中国広東省に売ることも長期的には可能性がある。両国は、政治的に対立するよりも、経済面で相互に協力する方が得られる利益は大きいと考えている。

  7. ミャンマーの動向
  8. 今後ミャンマーがラオスやタイとの経済交流にどのような態度を示すかは重要である。アウン・サン・スー・チー女史の解放は、日本やアメリカなど大国との関係を改善するうえで役立つものと思う。ミャンマーはASEANとの接触を以前から進めており、ASEANとの関係においてはスー・チー問題は特に障害ではなかった。
    経済開発を進めるうえで、ミャンマーにとってのライバルは、タイとベトナムである。国内政治の安定度を比べると、ミャンマーよりもベトナムの方が安定している。ミャンマーは少数民族問題を抱えているが、現在カレン族との和解を残すだけとなった。タイの華僑資本がミャンマーに多く進出しているが、インフラ整備に取り組むようなことはない。ミャンマーのインフラ整備には日本の協力が不可欠である。

拡大インドシナ経済圏概観


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