日本・香港経済委員会総会(委員長 秋山富一氏)/7月25日

1997年中国返還後の香港のゆくえ


香港は97年7月1日、中国に返還される。返還に伴い、どのような影響が生じるかは、日本企業にとっても大いに関心のあるところである。そこで日本・香港経済委員会では、7月25日、総会を開催した際に、香港経済貿易代表部のデービッド・ラン首席代表を招き、中国返還後の香港を取り巻く地域経済圏の展望と香港政庁の対応について説明を聞いた。以下はその概要である。

  1. 世界の注目を集める中国返還
  2. 中国返還まで残すところ2年となった。返還が近づくにつれ、香港がマスコミで取り上げられる機会も増えている。選挙制度に関する意見の不一致など、中国との間での軋轢が世界の注目を集めた。『フォーチュン』95年6月26日号は「香港の死」と題する特集記事を掲載している。
    世界が香港を注目していること自体は望ましいことだが、香港に関する最近の報道のなかには冷静な分析に基づくものとは言いがたいものもあり、内容について疑問を感じる人も多いのではないかと思う。
    香港は世界でも最も自由な経済活動の場である。香港の法人税は16.5%、個人所得税は15%であり、税制は簡素なものである。香港は自由貿易を基本理念とし、政庁は経済活動に介入せず、平等な機会を広く提供することを目指している。84年「英中共同宣言」、90年「香港特別行政区基本法」は、97年7月以降も香港は自由な競争社会であり続けることを規定している

  3. 香港経済の現状
  4. 香港の最近10年間の平均成長率は 6.5%である。同じ期間におけるOECD加盟国の平均成長率は3%であった。香港の人口は約 600万であり、株式市場の時価総額は世界で第7位、アジアでは日本に次いで第2位の規模を誇る。94年実質GDP成長率は 5.5%、95年も同じ程度の成長が見込まれる。今後2〜3年は5〜6%の成長が続くものと思われる。94年の1人当たりGDPは21,800ドルであり、この水準はイギリスや他の欧州諸国を上回る。
    94年の消費者物価上昇率は 8.1%であり、昨年来、不動産相場の鎮静化に努めてきたことが効果を上げてきた。94年の失業率は 2.1%で、一部の政治家が指摘するほど悪いものではない。
    経済成長率が高く、景気が低迷しているわけではないが、レストランや小売業など一部の業種は業績が芳しくない。一方、経理部門や貿易取引の分野では人手不足の状態にあり、労働力需給にミスマッチが生じている。失業のもうひとつの理由として、海外からの帰国者が増えていることが挙げられる。

  5. 自治権の維持
  6. 97年7月以降も香港は自治権を持ち続ける。香港の関税は中国とは別になっており、WTO/GATT、APEC、アジア開発銀行など多くの国際組織に対しても香港は独自のメンバー資格を持つ。金融、財政、司法制度も独自に運営され、出入国の自由も確保される。香港市民の現在のライフスタイルは、少なくとも今後50年間は変わることはない。
    昨年から今年にかけて、香港の選挙制度、最高裁判所、新空港の財政手当などをめぐる中英間の対立が報道された。最高裁判所と新空港の財政手当問題については7月上旬に解決をみた。選挙制度に関する意見の対立が残っているが、今年秋の立法評議会議員選挙の後には事態は鎮静化するだろう。
    イギリスが求めているのは「名誉ある撤退」である。すなわち返還以降も香港が繁栄を続け、企業にとって良いビジネス環境が維持されることである。中国は誇り高い国であり面目を重視するので、イギリスの主権下よりも、返還後の香港が繁栄することを望んでいる。両者ともに、返還後も香港が繁栄し続けることを期待しているのである。

  7. 香港を取り巻く経済関係
  8. 香港は中国と緊密な経済関係を維持している。香港にとって中国は貿易、投資両面で最大の取引相手であり、同じことは中国にとっても言える。資本取引についても、香港証券取引所の会計基準が適用されるにもかかわらず、これまでに中国の国営企業15社が香港市場に上場している。
    香港にとって中国は、確かに貿易、投資の面で重要な取引相手であるが、香港経済は中国だけに依存しているのではない。日本をはじめ、インドネシア、ベトナム、タイ、台湾、フィリピン、韓国など多くの国と多面的な経済関係を維持している。
    香港は金融センターとしても機能しており、例えばニューヨークよりも香港の方が、邦銀の数は多い。製造業の分野では、日本からの投資が第1位を占めている。

  9. 資金流出と台湾との関係
  10. 返還を前に香港から財産が海外に移されているとの報道が一部にあるが、海外への財産の持ち出しは、いま始まったことではない。「英中共同宣言」が出された84年前後には資金が香港から流出したが、それを上回る資金が流入し、差し引きでは純増になった。返還自体は恐れるようなものではない。貿易に立脚している香港経済にとっては、むしろ日米間の通商摩擦問題の方が懸念される。
    また台湾との関係にも大きな変化はない。返還後も台湾の企業、政府系組織ともに香港に残ることができるし、台湾の銀行も業務を継続することになっている。台湾と香港との経済関係や香港を通じた台湾企業の貿易、投資活動には何ら影響はない。

  11. 「香港プロモーション・日本95」
  12. 9月25日〜29日、東京、大阪、福岡で「香港プロモーション・日本95」を開催する。同催しは、香港政庁が企画する広報戦略の一環であり、経済セミナー、懇談会、パーティー、コンサートなどを行う。これまでにも92年にカナダ、93年にフランス、ドイツ、オランダ、94年はアメリカで開催してきた。今回、日本で開催するにあたり、アンソン・チャン行政長官をはじめ、政庁高官と香港企業関係者が来日する。日本・香港経済委員会関係者には是非参加してもらいたい。


香港経済貿易代表部

香港政庁が海外8カ所に設けている窓口であり、いわば大使館に相当する。東京には88年9月に設置された。日本政府との連絡、香港に関する情報提供等を行なっている。デービッド・ラン首席代表は同代表部の長である。


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