ユニラテラリズムを超えて−日米同盟の再構築のために−/7月27日

国際秩序安定のために日米同盟は不可欠


ディッチリー日本委員会では年次総会の開催に引き続き、佐藤 誠三郎世界平和研究所研究主幹・埼玉大学教授を招き、ディッチリー記念講演会「ユニラテラリズムを超えて−日米同盟の再構築のために−」を開催した。席上、佐藤教授からは国際秩序の安定のために日米同盟の存在は不可欠であるとの発言があった。以下は、佐藤教授の講演概要である。

  1. アメリカと日本の孤立主義
  2. アメリカは建国以来、人為的に作られた「孤立主義」という理念に基づく共和国であり、「モンロー主義」もその延長線上にある。したがって、アメリカの孤立主義は資源も人口もチャンスも豊かで自由な生活を享受できるため、旧世界(欧州)との関係が必要ないという思考に基づく「自信を持った孤立主義」であると言える。一方、日本の江戸時代に存在していた「鎖国」という孤立主義はキリスト教による悪しき影響を遮断するための「自信のない孤立主義」であった。当時の日本は人口約3500万の前近代社会で資源も食糧も自給が可能であったため、孤立主義をとることができたが、近代化以降、産業文明による豊かな生活を享受するためには海外に依存せざるを得ず、もはや「孤立主義」を選択することは不可能となった。同様に近年、アメリカでも貿易依存度が急激に高まり、軍事的には可能であっても経済的には孤立主義を選択することが不可能となった。こうして豊かな国内市場を対象としていたアメリカ企業が輸出志向に転換することによって貿易摩擦が生じることとなった。

  3. アメリカと日本の「ユニラテラリズム」
  4. 「ユニラテラリズム」は孤立主義と異なり、一方的な権利の行使を意味する。アメリカのユニラテラリズムはアメリカの様式が全て正しく、健全な理性と十分な情報を持っていればアメリカの様式を選択するという考えに基づく「自信のあるユニラテラリズム」である。しかし、日本のユニラテラリズムは日本は異質であるので独自の様式を選択するという考えに基づく。日米のユニラテラリズムが衝突すると重大な問題となるが、日本のユニラテラリズムは弱化し、アメリカもユニラテラリズムを貫徹する力を失っているため悲観することはない。日米包括経済協議の自動車交渉や航空交渉でアメリカのユニラテラリズムも交渉のタクティクスに過ぎず、発動することはアメリカにとってもマイナスであることが明らかになった。したがって、日米は「ユニラテラリズム」を超えることが可能であると考える。

  5. 日米同盟の今後の意味
  6. 今後のアメリカの東アジア戦略に関してフォーリン・アフェアーズ誌に「The Pentagon's Ossified Strategy(C.ジョンソン、E.B.キーン)」と「The Case for Deep Engagement(J.S.ナイ)」という論文が発表された。ジョンソン、キーン論文は「軍事要因より経済要因が重要な現在、アメリカが一方的に負担している日米同盟を解消し、日本を責任ある国とするべきである」という主張を展開し、ナイ論文は「日米同盟の解消は、アメリカの東アジアでの負担を拡大する」という対極的な見解を示している。アメリカにはソ連崩壊によりロシアの軍事的脅威がなくなった現在、「対ソ封じ込め政策」に基づく日米同盟はもはや必要ないという意見もある。しかし、アジア・太平洋地域の国際秩序安定のためには米軍のプレゼンスおよび日本の米軍駐留へのロジスティック・サポートが不可欠である。日米同盟の目的も対ソ封じ込めから国際秩序の安定に転換してきている。したがって、アメリカはユニラテラリズムを放棄して交渉によるコンセンサス形成のための努力を行い、日本は特殊論を放棄し国際問題に積極的に参加していく責任ある国に変わっていく必要がある。ナイ論文では東アジア安全保障におけるアメリカの選択肢として、
    1. 東アジアからの撤退、
    2. アジア各国との同盟の解消、
    3. マルチラテラルな地域機構の形成、
    4. 東アジアでの軍事同盟機構の形成、
    5. アメリカのリーダーシップ
    を挙げ、アメリカのリーダーシップを最善策としている。しかし、リーダーシップはアメリカのみに存するのではなく、リーダーシップ・シェアリングが必要であると考える。


ディッチリー国際会議 今後の予定

<1995年>
9月15日〜17日
「ヨーロッパの形成:進歩と見通し」
"The shaping of Europe : progress and prospect."
9月29日〜10月1日
「ビジネスと環境」
"Business and the environment."
10月20日〜22日
「トウ小平後の中国:政策の影響」
"China , after Deng : policy implications."
11月3日〜5日
「高齢化の政治的・社会的・経済的影響」
"The political , social and economic implications of ageing populations"
11月17日〜19日
「南アフリカ:国内発展と対外関係」
"South Africa : internal development and external relations."
12月1日〜3日
「公共サービスの精神と倫理」
"The ethos and ethics of public service."

<1996年>
1月19日〜21日
「ロシア」
"Russia."
2月9日〜11日
「貧困への対応」
"Responses to poverty."
2月23日〜25日
「中東」
"The Middle East."
3月8日〜10日
「東アジア」
"East Asia."
3月29日〜31日
「新情報技術の影響:道徳的規律問題と公共政策」
"The impact of new Infomation Technology:control issues for ethics and public policy."
(1995年7月27日現在)


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