日本ブラジル経済委員会(委員長代行 室伏 稔氏)/8月2日

ブラジル経済−レアル・プラン導入後、1年を経て


日本ブラジル経済委員会では、ブラジル連邦共和国のマラン大蔵大臣を招き、レアル・プラン導入1年後の同国の経済状況を中心に説明を聞いた。同大臣は、「レアル・プランは従前にない最も成功した経済安定化政策であり、これまでの実績をもとに今後ともこの政策を継続していくつもりである」と強調した。また、今年が日伯修好通商航海条約締結から100周年を迎える年であり、両国間の関係が新しい未来に向かって益々発展することを希望する旨述べた。以下はマラン大蔵大臣との懇談の概要である。

  1. マラン大臣説明要旨
  2.  マラン大蔵大臣

    1.ブラジル経済情勢

    (1)インフレの状況
    過去、幾度となくインフレの鎮静化に向け努力してきたが、いずれも失敗した。その中でレアル・プランはブラジル経済史上最も成功した経済安定化政策である。同プラン導入後、13カ月が過ぎたが、今年の上半期のインフレ率は10.6%に止まり、73年以来最も低い水準となっている。今年の年間インフレ率は25〜29%程度となる見込みである。
    賃金と物価のインデクゼーションの存在がインフレの助長につながった過去の苦い経験を踏まえ、同プランではこの悪循環を断つという思い切った措置をとった。もとよりインフレ率を1年で一桁に抑制できるとは思っていない。チリのように徐々にインフレ率を引き下げる方法をとっていくつもりであるが、そのためには、まず過去30年間続いたインデクゼーションのメカニズムを変えなくてはならない。

    (2)GDPの動向
    昨年のGDPの実質成長率は5.7%と歴史的にも高い水準であった。因みに工業部門が7%、また農業部門は史上空前の豊作により7.6%の成長を達成した。今年については第一四半期の消費が飛躍的に伸び、大幅な輸入増を招いた。このままでは国際収支に影響を及ぼすことが予想されたため、レアルの引下げや自動車・家電製品などの関税の暫定的な引上げを実施した。かかる引締め策の下でも今年のGDPの成長率は対前年比5〜6%程度の伸びを見込んでいる。

    (3)対外部門について
    過去4年間、貿易・金融・投資等の分野で自由化政策を採用してきた。
    貿易面では今回の経済開放の進展の下、品質の改善、合理化によってブラジル産業の技術水準が向上し、国際競争力もかなり強化した。
    金融面では実に15年ぶりに国際金融市場から2度にわたって資金調達を行なった。1つは、5月の円建て国債(2年もの)の発行で、800億円の資金調達に成功した。もう1つが6月のドイツ・マルク建ての3年ものの起債で10億マルクを獲得した。
    ブラジルの為替政策に関しては為替変動に一定の幅を設ける制度を採用することを発表している。最近では、6月23日に対米ドル為替レートを0.91〜0.99レアルの間に設定している。この制度がブラジル経済に最も適していると考えている。ブラジルの外貨準備高は、昨年末から今年初めにかけてメキシコ通貨危機の後やや減少したが、まもなく以前の水準に回復するものと確信している。

    2.財政・税制改革について

    レアル・プラン導入後、7月1日で1年が過ぎたが、残された課題は多い。特に財政・税制改革を急がなければ高インフレ再現は避けられない。昨年度の一般財政収支は対GDP比3.8%の黒字であった。今年度もほぼ同様であろう。しかし、黒字の理由は必要な公共部門への投資を手控えた結果であり、恒久的な解決策が必要である。そのためには憲法上の改革が不可欠であり、関連法案を8月に議会に提出する予定である。
    法案の第1は、公共部門、特に行政の近代化に関するものであり、第2は、税制改革であり、税制そのものの簡素化ならびに法人税の改革を含めた憲法の改正を図ることである。第3は、政府支出のあり方をかえ、公共サービスの提供にあたっては、連邦州と地方自治体の役割分担をより明確、適切にする法案である。

    3.今後に向けて

    ブラジルは人口世界第5位、GDPは6,000億ドル、貿易額も900億ドルをそれぞれ超える経済規模を有する。また言語がひとつであり文化的にも一体感がある。過去、政治・経済等あらゆる分野での問題を克服してきた実績に対してブラジル国民は自信をもっている。カルドーゾ大統領への国民の信頼は厚く、改革への期待は益々高まっている。日伯修好通商航海条約締結から100周年の本年を機に、両国関係が新しい未来に向かって益々発展することを希望している。

  3. 質疑応答
  4. 経団連側:
    自動車等への関税措置はしばらくは続くのかどうか?

    マラン大臣:
    本措置は緊急避難的な一時的なものである。メルコスールの枠組みの中でアルゼンチン等メンバー国と97年までに共通の体制を構築するということで合意に達している。


マラン大臣と握手する室伏委員長代行


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