中南米委員会総会/8月8日

中南米の政治・経済情勢と今後の見通しについて外務省の堀村中南米局審議官と懇談


中南米委員会では、第2回定時総会を開催し、1994年度事業報告・収支決算、1995年度事業計画・収支予算を審議、承認した。
当日は、審議に先立ち、外務省の堀村中南米局審議官より、「最近の中南米の政治・経済情勢と今後の見通し」について説明を聞いた。
以下は堀村審議官の説明の概要である。


高垣 佑 中南米共同委員長 宮岡公夫 中南米共同委員長

1.政治情勢

中南米諸国が「失われた10年」といわれる80年代から飛躍の時代とされる90年代に入り得た大きな要素として、政治の安定化があろう。これには、国内的要因と対外的要因の2つがあったと考えられる。
国内的要因として、中南米で伝統的に政治の表舞台に立つことの多かった軍部が、80年代中に表舞台からほとんど姿を消し、クーデターも影をひそめたことが挙げられる。現在では、中南米33か国のうちキューバを除く32カ国の政権が民主的選挙によって選ばれている。
昨年から今年にかけては、メキシコ、ブラジル、ペルー、アルゼンチンをはじめ11か国の大統領選挙が行われ、各国で民主化・経済改革路線が継続されることとなった。
対外的要因としては、冷戦構造の崩壊により旧東側陣営からの中南米に対する影響力の行使が影をひそめたことが政治的安定に大きく貢献したものと思われる。
しかし、中南米の構造的問題である貧富の格差は、一頃のハイパーインフレを経て更に拡大する傾向すら見られる。治安、麻薬問題も貧困問題に密接に関連しており、先住民問題も課題である。政治的安定の定着には、貧富の格差是正に配慮しつつ経済開発を促進していくことが不可欠であると思われる。

2.経済情勢

中南米諸国は概ね、1人当たりGNPが 696ドルから8625ドルまでの中所得国に該当する。GNPでは、ブラジル(約4800億ドル)、メキシコ(約3200億ドル)、アルゼンチン(約2440億ドル)の「ビッグスリー」がずば抜けて大きく、次に他の南米諸国、更に中米諸国、カリブ諸国の順となっている。開発の程度は比較的似通っているが経済の規模は極めて多様であるといえる。
90年代に入り、中南米諸国の平均経済成長率は概ね3%を記録した。平均インフレ率も、ブラジルを除き平均で91年の49%から94年の16%へと着実に低下傾向を示し、ブラジルもレアルプランの導入により急速に安定化の傾向を示し、今年は25%から30%程度の水準が予想されている。
貿易については、中南米の輸出額は90年の1218億ドルから94年には1528億ドルに約25%増、輸入額では90年の946億ドルから94年には1710億ドルへ約80%増と急速に増加した。
民政移管後、多くの国が国営企業の民営化、貿易の自由化を通じた開放経済への転換を行い、輸出指向政策や外資導入をより重視する政策を採りはじめた。こうした経済政策の転換が奏功し始めたものと考える。
他方、貿易の自由化は中小企業、農業等の競争力の相対的に弱い部門に大きな負担を与えがちであり、民営化の過程で失業問題が深刻化する恐れも多分にある。また、資金不足を補うための外資への過度な依存は、メキシコのケースで明らかなように何らかの政治的不安等を引き金に金融面に予期せざる深刻な影響を及ぼしかねない。
この点に関しては、同様の金融危機の再発を未然に防止するため、本年6月のハリファックス・サミットで、IMFによる早期警戒システムの改善および、万一危機が発生した場合のIMFによる緊急融資の仕組みを強化することが合意された。

3.地域主義

最近の中南米情勢を考える際、地域主義もしくは地域統合の流れは無視できない。政治的側面では、中南米諸国、米国、カナダの間には、独立当初から西半球共同体的な発想があり、これが第2次大戦後、米州機構(OAS)に発展してきた。近年ではOAS、リオ・グループにより、中南米の民主化促進のための活動が行われている。
経済的にも、60年代以降「小地域主義」(サブ・リージョナリズム)の流れが重層的に見られる。中米共同市場、アンデス・グループ、カリブ共同体等が60年代から70年代中頃までに成立し、91年にメルコスール、92年にNAFTAが誕生した。
最近、特に注目されているメルコスールは、91年の条約調印以降、段階的に域内関税率を引き下げ、本年1月には一部の例外品目を除き域内関税を撤廃した。域外に対しては一部の例外品目を除き0〜20%の共通関税を持つ関税同盟として始まった。域外との自由貿易地域創設の交渉も推進している。本年6月、ブラジルが自動車の輸入割当制を導入したことから加盟国内で問題となったが、現在は解決している。
昨年12月の西半球サミットでは、2005年を交渉期限とするFTAA(米州自由貿易地域)の樹立が合意された。
一方、最近アジア・太平洋地域への関心も大変強くなってきている。

4.わが国と中南米の関係

わが国の対中南米直接投資を85年度と94年度とで比較すると、対外投資全体の21.4%から12.7%に大幅に減少している。この原因には、日本側関係者の間に今でも残る80年代を通じた苦い記憶、日本経済の不振等があるものと考えられる。しかし、94年度の投資は、93年度(同9.4%)と比較すれば55%増加であり、この傾向が更に続いていくことが期待される。
わが国と中南米地域の今後の相互依存関係の発展を見据え、同地域諸国との交流のパイプを着実に拡大していただきたい。
政府としても、中南米諸国の民主化および経済改革努力への支援、人的交流の促進を2国間協力として続けるとともに、地域間の枠組みによる協力の推進に取り組んでいる。


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