日本イラン経済委員会総会(委員長 相川賢太郎氏)/8月4日

イランの政治・経済情勢と今後の日本イラン関係


日本イラン経済委員会では、1995年度定時総会を開催し、1994年度事業報告・収支決算、1995年度事業計画・収支予算を原案通り承認した。
また、当日は議案審議に先立ち、通商産業省の立岡恒良中東アフリカ室長より、イランの政治・経済情勢と今後の日本イラン関係について説明を聞いた。以下はその説明概要である。

 相川日本イラン経済委員長

1.米国とイランとの関係

今日の米政府の対イラン制裁は、イラン・イラク二重封じ込め政策の一環である。クリントン政権は、
  1. 世界貿易センタービル爆破などテロ事件への関与疑惑、
  2. 核兵器・長距離ミサイル開発疑惑、
  3. 中東和平プロセス不支持表明、
  4. 中東周辺諸国への革命輸出
などの観点からイランを厳しく批判している。
特に、本年3月以降、次期大統領選挙を睨んでイラン制裁の動きが活発化し、5月の制裁措置発令に至った。今回の制裁によって87年以降の対イラン直接輸入禁止に加え、対イラン輸出(第三国からの再輸出を含む)、ファイナンス、新規投資も禁止された。その結果、米国企業による約40億ドルのイラン原油の第三国取り引き(イランの原油輸出総量の約2割)、米国の対イラン輸出約3.2億ドル(産業機械、小麦等)が停止になった。
また米国は、制裁発令に伴い先進各国に対して
  1. 借款の凍結、
  2. 輸出入の禁止、
  3. ステップ・インの禁止(米国の制裁によって生じたビジネスの穴を埋めないこと)
など同調を要請してきた。
しかし、これまでに米国とともに対イラン強行姿勢をとってきた英国が真先に同調を拒否したのを始め、フランス、ドイツなど主要諸国も今回の米国の行動に同調しなかった。各国ともにクリティカル・ダイアログ(批判的対話)は継続しても具体的に米国の要請には対応しないという姿勢をとっている。
米国が各国の同調を得られなかった理由としては、
  1. 国連で制裁決議として認められるような内容でないこと、
  2. 米国の国内問題から発生した制裁であること、
などが上げられる。
日本政府は、ハリファクス・サミット(6月9日)前に制裁に同調しない旨、米国に対して正式に回答した。

2.最近の政治経済情勢と外交政策

イランの国内政治は概ね安定している。今回の米国の制裁は、国内の団結を高めるという意味でラフサンジャニ政権に有利に働いたという見方が大方である。
ラフサンジャニ政権にとって最大の課題はイラクとの戦争によって疲弊した経済の再建である。
第1次経済5カ年計画において急速な改革が国内経済を混乱させたことから、本年3月に発表した第2次経済5カ年計画では、
  1. 適正経済成長の確保、
  2. 金融財政問題の解消、
  3. 対外債務返済履行、
  4. 政府の役割縮小、
  5. インフレ抑制
に重点を置いている。石油収入を1バレル15.5ドルと想定するなど現実的数値を目標に掲げている。
94年、イラン経済は著しい外貨不足に直面した。緊縮財政運営と各国のリファイナンス等により危機的状況はかろうじて脱却したものの、今なお高インフレ、為替レートの低下、高失業率の深刻化など予断を許さない状況が続いている。
外交の基本方針は、東西に偏らない中立外交である。米国との関係においては、最近、マスメディアを通じてイランのマイナス・イメージ払拭に努めている。EUとの関係においては、EU経済人のイラン訪問など、ビジネス・ベースで着実に話が進んでいる。
中東和平プロセスについては、最近は以前よりも柔軟になってきており、賛成はしないが妨害はしないという姿勢を見せている。

3.わが国とイランとの関係

日本は、イランにとって最大の貿易相手国であるが、昨今、イランのファイナンス面での悪化から日本の輸出が急速に減少しつつある。米国の対イラン制裁や中東和平プロセスへの不支持表明など今日、イランが国際政治的に微妙な立場にあることから、日本政府の対応も慎重にならざるをえない。ちなみに、対イラン第2次円借款供与について検討中である。
通常取引については、92年5月の短期L/C支払遅延以降、オイル・スキームで対処して成果を上げているものと考える。非付保債権については、イラン側の中銀と日本の民間銀行で協議を続けているが、依然として厳しい状況にあると聞いている。
なお、中長期貿易保険の引き受けについては、イランの経済状況を見極めながらケース・バイ・ケースで対応していきたい。
新たな案件を民間ベースで進めることについては何ら問題ないが、ステップ・インについては、十分留意願いたい。


日本語のホームページへ