新輸出管理規制案に関する説明会(司会:北岡通商対策委員長)/9月1日

大量破壊兵器等の不拡散のための新たな補完的輸出規制について


核兵器等の拡散を防止するため、米英独等では「Know規制」と呼ばれる汎用品に係る規制を導入している。わが国でも1993年3月に産業構造審議会安全保障貿易管理部会が大量破壊兵器等の不拡散のための補完的輸出規制の導入を提言し、これに基づいて今般、政府は輸出管理に関する新規制案を発表した。新規制案によって輸出管理を要する業種、規制対象貨物が拡大することが予想されることから、中山通商産業省貿易局輸出課総括班長を招いて新輸出管理規制案に関する説明会を実施した。なお、新規制案は欧米の規制と比較して規制対象が著しく拡大する可能性もあり、企業の通常の事業活動を阻害する惧れもあることから経団連でも十分検討の上、産業界の意見を提起していく予定である。

1.新規制導入の趣旨・目的

現行の輸出管理は通常兵器に関する規制と大量破壊兵器等に関する規制に大別できる。今回の新規制案は大量破壊兵器の規制に係わるものである。大量破壊兵器(核兵器、生物・化学兵器)と運搬用のミサイル、およびその製造・開発等に用いられる蓋然性が高い民生用貨物については国際的な輸出管理レジームが存在し、わが国も参加している(表参照)。
しかし、それ以外の貨物に関しても大量破壊兵器等の製造・開発等に用いられる可能性が否定できないことから、欧米諸国ではいわゆる「Know規制」と呼ばれるゆるやかな規制を国内法規によって導入している。「Know規制」とは「輸出貨物が大量破壊兵器等の製造・開発等に用いられることを輸出者が“知っている”または“知りうる理由がある”場合に政府の輸出許可を要する」という規制である。
わが国でも欧米のように現行制度を補完するゆるやかな新規制を国内規制によって導入するべきであるとの観点から、今回の新規制案を策定した。この新規制案は「Know規制」を参考にしたが、欧米の制度にも各国産業界の不満があることから、「知っている」という主観的基準は導入していない。

大量破壊兵器等に関する国際的輸出管理レジーム

2.新規制案の概要

新規制案では「許可申請要件」を定めることが大きな特長である。「許可申請要件」として欧米の「Know規制」に対応する「客観要件」を通商産業省令で定めるほか、通商産業大臣が輸出許可を要することを通知した場合に規制に係らしめる「Inform要件」を導入する。「客観要件」では輸出品の用途と需要者の属性(現在または過去に核兵器等の製造・開発または多数の人の生命、身体、財産に危害を及ぼした需要者)によって規制対象を設定し、こうした事項が契約書等の通常の商行為によって入手した書類およびその他記録媒体などに記載されている場合、もしくは輸入者等からその旨、連絡を受けた場合に政府の輸出許可を要するものとしている。また、対象貨物は欧米の規制が全貨物であるのに対し、新規制案では現行制度で規制している「品目」に限定する。ただし、現行制度では定量的・定性的基準によって一定の能力を要する貨物に限定しているが、新規制案ではあらゆる性能の貨物を規制対象としている。規制対象国は全地域であるが、国際的に大量破壊兵器等の不拡散のための輸出管理に参加している国については「客観要件」による規制を適用しない予定である。
さらに、「客観要件」に該当していない場合でも、輸出者が「輸出貨物が大量破壊兵器等の開発等のために用いられることを知った場合」には通商産業大臣に届け出なければならないという「Know規制」を行政指導によって実施する。
新規制は9月初旬まで産業界との調整を行い、9月下旬〜10月初旬には閣議決定、来年度施行という日程で導入したいと考えている。


通商産業省令(案)

  1. その貨物の輸出に関し、その契約書又は輸出者が入手した文書若しくは記録媒体において、当該貨物が、核兵器等の開発等のために用いられることとなる旨又は多数の人の生命、身体若しくは財産に重大な危害を及ぼすために用いられる旨記載され、若しくは記録されているとき。

  2. その貨物の輸出に関し、その契約書又は輸出者が入手した文書若しくは記録媒体において、当該貨物の需要者が、核兵器等の開発等若しくは別表に掲げる行為を行う旨又は多数の人の生命、身体若しくは財産に重大な危害を及ぼす旨記載され、若しくは記録されているとき。

  3. その貨物の輸出に関し、その契約書又は輸出者が入手した文書若しくは記録媒体において、当該貨物の需要者が核兵器等の開発等若しくは別表に掲げる行為を行った旨又は多数の人の生命、身体若しくは財産に重大な危害を及ぼした旨記載され、若しくは記録されているとき。

  4. その貨物の輸出に関し、輸出者が、当該貨物が核兵器等の開発等のために用いられることとなる旨又は多数の人の生命、身体若しくは財産に重大な危害を及ぼすために用いられることとなる旨輸入者若しくは需要者又はこれらの代理人(以下「輸入者等」という。)から連絡を受けたとき。

  5. その貨物の輸出に関し、輸出者が、当該貨物の需要者が核兵器等の開発等若しくは別表に掲げる行為を行う旨又は多数の人の生命、身体若しくは財産に重大な危害を及ぼす旨輸入者等から連絡を受けたとき。

  6. その貨物の輸出に関し、輸出者が、当該貨物の需要者が核兵器等の開発等若しくは別表に掲げる行為を行った旨又は多数の人の生命、身体若しくは財産に重大な危害を及ぼした旨輸入者等から連絡を受けたとき。

別表

  1. 原子力基本法第三条第一号に規定する原子力に関する研究。
  2. 原子力基本法第三条第四号に規定する原子炉の運転(その原子力が発電の用に供する沸騰水型軽水炉又は加圧水型軽水炉であることが明らかにされている場合を除く。)
  3. 重水の製造
  4. 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「規制法」)第二条第七項に規定する加工
  5. 規制法第二条第八項に規定する再処理
  6. 化学若しくは微生物、毒素若しくは遺伝子若しくはロケット若しくは航空機または宇宙に関する研究(軍若しくは国防に関する事務をつかさどる行政機関が行うもの又はこれらの者から委託を受けて行われるものであることが明らかにされている場合に限る。)

日本語のホームページへ