経済協力委員会(委員長 米倉 功氏)/9月13日

人々を病気から解放することは人権を守ることである
―カーター元米国大統領と懇談


経済協力委員会、北アフリカ委員会、サブサハラ委員会、国際協力プロジェクト推進協議会ならびに海外事業活動関連協議会では、ジミー・カーター元米国大統領を招き、同氏の主宰する非政府組織(NGO)カーターセンターの活動につき説明を聞いた。
講演に先立ち、豊田会長より、経団連が外務省ならびに(財)国際協力推進協会との連携により、カーターセンターと協力して推進している「ギニア虫症撲滅事業」への募金目録贈呈を行なった。(*1)
以下は、カーター元大統領の説明概要である。

米倉委員長

  1. カーターセンターの活動について

    カーターセンターは、人権分野を中心に幅広い活動を行っている。特に、紛争防止と紛争の平和的解決に力を入れている。昨年は、北朝鮮、ハイチに重点的に取り組み、現在はボスニア・ヘルツェゴビナの重火器撤去に関し日夜、努力している。カーターセンターの特徴は、政府に代わって民間NGOの立場から、紛争当事者の両勢力へ直接、現実的かつ平和的な解決策を提示できることである。人権は、戦争状態で最も抑圧される恐れがあるため、紛争の防止と平和解決によって人々が平和に生活する権利が守られると考えている。
    また、人々が自由と民主主義の下で生活できることも人権を守ることと言える。カーターセンターは、軍事政権から民政移管が行われている国での公平かつ透明な選挙の実施を支援している。
    さらに、病気から人々が解放されることも基本的な人権である。天然痘は、地球上から撲滅された唯一の病気であるが、次の目標として1986年にWHO(世界保健機構)によって定められたのが、現在、経団連との協力により進められているギニア虫症撲滅計画である。

  2. ギニア虫症撲滅計画への取組み

    ギニア虫症は、日米ではあまり知られていない病気であるが、86年には、アジア、アフリカを中心とする世界22カ国で、約350万人が感染している。昨年には、感染者は13カ国で16万人となり、96%の減少が見られた。カーターセンターでは、ギニア虫症の原因を究明し、撲滅計画に取り組んでいる。(*2)
    13カ国の中でも、スーダンは12年に及ぶ内戦により計画が遅れている。本年3月にスーダンを訪問し、両陣営から休戦を取り付けることができた。休戦期間中に、特に事態の深刻な南部地域を中心に、経団連募金の一部により購入した車両で各村を訪問し、ギニア虫症撲滅に必要な飲料水を濾過するためのフィルター等を運んでいる。経団連募金なくして、このように効果的な撲滅計画を進めることはできないであろう。経団連とカーターセンターとの協力は、従来の政府間協力に代わる「企業とNGOとの協力」という新しい協力の形態として世界中から認識されるべきである。
    今回の協力により購入された車両40台、オートバイ72台により、人里離れた村へフィルターを運ぶことができ、人々を病気の苦しみから解放することができるのである。経団連の協力により、救われた人々は皆、深く感謝していることであろう。
    最後に、改めて、ご協力いただいた全ての皆様に厚く御礼申し上げたい。


*1 ギニア虫症

ギニア虫症とは、飲料水中のミジンコを媒体として、人体に感染する寄生虫症の一種。約1年を経て、体内で1m程の成虫になった後、感染者の膝、くるぶし等の関節部に潰瘍を形成し、数カ月かけて皮膚を食い破り、体表へ突出する。直接、生命にかかわることはないが、感染者はその痛みとかゆみにより、歩行、就労が困難となり、社会的損失は甚大である。
感染者の潰瘍部が水に漬かると、そこからメスの成虫が産卵することにより、水が汚染される。
対策としては、有効なワクチンが開発されていないことから、汚染されていない清潔な飲料水を確保するために、井戸の採掘、水の濾過、化学薬品による水源の処理等が行われている。

*2 経団連とカーターセンターとの協力

経団連では、本年3月より、同計画への募金活動を実施している。これまでに33社から合計90,500,000円の協力があり、現在も継続中である。寄せられた募金は、外務省の草の根無償資金協力と併せて、アフリカ14カ国に対する車両、オートバイ、医薬品の購入等に用いられている。
今回の協力は、対アフリカ支援をめぐり、日本における経団連と外務省の間の官民協力、さらに米国NGOカーターセンターとわが国民間企業を代表する経団連との間での民間経済協力という新しい協力の輪を広げた。


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