インドの投資環境に関する懇談会/9月6日

世界最大の消費市場 インド経済の行方


経団連では今年1月、インドに投資環境調査ミッション〔団長:歌田勝弘氏〕を派遣したが(『経団連くりっぷ』No.3、2月9日号参照)、このほど、同ミッションの受け入れにあたり協力を得たインド工業連盟(CII)の首脳一行が、インド経済の魅力と規制緩和の進捗状況を説明するために来日した。そこで、経団連ではプラナーブ・ムカルジー外務大臣を来賓に迎えて懇談会を開催し、インドの経済界が現在のラオ政権による経済改革をどう評価しているかを中心に意見交換を行なった。

  1. 与野党がともに支持する経済改革
    ―ムカルジー外務大臣の説明から

    いまインドでは産業政策、貿易、税制、財政など広範な分野で改革を進め、外国資本の誘致に積極的に取り組んでいる。経済改革の継続性と安定性を不安視する向きもあると聞くが、これまでのところ経済活動は活況を呈しており、改革の過程は順調である。
    インドは世界最大の民主主義国家であり、言論の自由が保障されている。総選挙が近づくにつれ政治的な議論が盛んになるが、現政権が進める経済政策は幅広くコンセンサスを得ている。与野党はともに経済改革の必要性を認識しており、規制緩和や経済活動の自由化に対して異論を唱える政党は存在しない。例えば、西ベンガル州の共産党政権やビハール州の社会党政権も積極的な外資誘致を通じて、産業振興に努力している。しかし一方で、このような経済改革への取り組みは比較的最近のことでもあり、試行錯誤のうえ一部では政策の修正を余儀なくされているのも事実である。
    日本企業は対外投資を長期的な視野に立って考えるため決断には慎重だが、いったん、決めれば着実に実行するとの話を聞いた。安全性と収益性に確信が持てるまで検証を重ねるのは投資家として当然のことである。インドでのビジネス慣行は欧米のそれに近く、インド企業とパートナーを組めば国内市場への参入は円滑にできると思う。
    いまインドはダイナミックな成長と変革の時代を迎えようとしている。政治経済面での安定度、質の高い熟練労働力と安い賃金、豊富な天然資源と巨大な国内市場などが誘因となり、米国、ドイツ、英国をはじめ東アジア各国の企業も、インド市場に参入し始めている。経済改革に着手してから既に4年が経過したが、91年4月〜94年12月の対内投資(認可ベース)は86億2,100万ドルであり、うち直接投資は18億6,700万ドルに達する。インド企業は過去2年間にユーロ市場から44億ドルを調達し、外貨準備高は現在200億ドルである。
    94年度(4月〜3月)の実質GDP成長率は5.6%であり、95年度はこれをさらに上回るものとみられる。94年度の工業生産は8.4%増、今年度はこの2倍の増産が見込まれる。
    インドは日本との経済関係を最も重視している。今年1月の橋本通産大臣の訪印以来、日印間で対話が進められていることを嬉しく思う。インドを訪れる日本のミッションも増えた。労働集約型産業からハイテク産業まで幅広い分野で実り多い経済関係を築くことができると思う。

  2. インド経済界からみた経済改革
    ―インド工業連盟の説明から

    インドはアジアで3番目に大きな工業力を持ち、世界銀行の調査ではインドの購買力は世界第5位である。インドには優れた産業基盤があり、農業も盛んである。国内の鉄道網は世界第2の規模を誇り、基幹産業である鉄鋼や重機械などの重工業も発達している。技術者数もインドは世界第3位であり、外国企業との商取引関係は100年以上の歴史を持つ。
    インドには欧米の水準に匹敵する高所得者層が3億人おり、世界でも最大規模の消費市場である。家電、自動車、繊維、電機、電力、消費財などの分野において年率2桁台の成長を続けている。資本財部門は94年4月〜95年2月に22.5%の成長を記録した。
    海外からの投資も急増している。90年の対内投資(認可ベース)は194件、7,300万ドルであったが、94年は1,062件、45億2,500万ドルに達した。外国企業との合弁に関する手続も簡素化され、事業活動に対する規制も撤廃された。優先分野における直接投資は出資比率51%まで自動的に認可される。輸出関連部門では出資比率100%も可能となり、認可が必要なものは限られた分野だけになった。外国企業による主な投資分野は、石油、電力、食品、金属、電機、電子などである。日本企業の進出も増えており、例えばソニー(出資比率100%)、本田技研工業(同51%)、旭硝子(同51%)、松下電器産業(同51%)、スズキ(同50%)、丸紅(同32%)などの例がある。
    資本財や部品の輸出入についても一部の例外を除き自由化された。外国企業に対する法人税率も65%から55%に、輸入関税の上限税率も65%から50%に、外国企業に対する長期キャピタル・ゲイン課税の税率も20%にそれぞれ引き下げられた。
    資本市場も健全な成長を遂げており、国際金融公社(IFC)によれば92年〜93年に57%(ドルベース)も拡大している。国内には23の証券取引所があり、7,000社が上場し、株主数は4,000万人、市場規模は1,540億ドルであり、1日に7,500万ドルの取引きが行われている。
    電力、石油、道路、港湾、通信、鉄道、航空などのインフラ関門分野への参入も民間企業に開放されている。

インド消費市場の成長率


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