国際租税委員会(委員長:坂野常和氏)・OECD諮問委員会(委員長:行天豊雄氏)

移転価格問題に関する経団連の対応と新OECD移転価格ガイドライン


国際租税委員会では、OECDの移転価格ガイドラインを通じて、米国の外資系企業への課税強化の動きを牽制する必要があると考え、大蔵省と連携をとりながら、ガイドラインの改正作業に積極的に関与してきた。この結果、95年7月に公表されたOECDの新移転価格ガイドラインは、経団連の主張が大幅に盛り込まれたものとなっている。このガイドラインは、各国政府、企業に対して遵守を要請するものであり、今後の国際租税制度の見直しや運用に多大な影響を及ぼすとみられる。
そこで国際租税委員会では、OECD諮問委員会と共催で、9月6日に大蔵省の小手川国際租税課長、黒澤同課長補佐を招き、新移転価格ガイドラインに関する説明会(約60社参加)を開催した。
以下は移転価格問題に対する当会の取り組みと新ガイドラインの概要である。


坂野委員長 行天委員長

  1. 米国における課税強化の動き

    1. 米国では、80年代後半より外国企業に対する課税強化の動きがみられるようになった。特に92年1月に公表された「移転価格に関する新規則案」では、外資系企業が同業種の米国企業と同程度の利益をあげているとみなして課税するCPI(比較対象利益幅法、後にCPM〔利益比準法〕)の考え方が打ち出された。

    2. 国際租税委員会では、このようなみなし利益課税は、移転価格に関する確立された国際ルールに反するものであり、OECDの場で多国間で検討すべきであるとの見解を示し、米国での公聴会にミッションを派遣するなどの働きかけを行なった。さらに大蔵省を通じてOECDへも働きかけた結果、OECDは、93年より移転価格に関するガイドラインの改定作業を開始することとなった。

    3. こうした動きを受けて、米国も規則案の見直しを行い、94年7月に公表された「移転価格税制に関する最終規則」は、CPMの適用を大幅に後退させた。

    4. なお、みなし利益課税と並んで大きな問題である罰則については、米国で94年1月に暫定規則(例えば、移転価格課税の結果、課税所得が増額修正される場合、過少申告加算税として不足納税額の 40%を課すとされている)を公表している。

  2. OECD新ガイドラインの概要

    OECDの新移転価格ガイドラインは、95年7月にOECD租税委員会において、その基本論部分の改正が終了し、公表された。新ガイドラインの改定に際して、国際租税委員会では、わが国経済界の意見を反映させるべく積極的に働きかけてきた。この結果、今回公表された新ガイドラインは、以下のように経団連の主張が大幅に取り入れられたものとなった。

    1. ガイドラインでは移転価格の算定方法について、次のような基本的な考えが盛り込まれた。
      第1に、独立企業間原則が再確認され、ユニタリー課税のようなグローバルフォーミュラ方式を明確に否定した。
      第2に、独立企業間原則に基づく移転価格の算定手法は、取引単位で比較した手法でなければならないとされた。
      第3に、CUP法(独立企業間価格比準法)、RP法(再販売価格基準法)、CP法(原価基準法)という伝統的な基本3法をPS法(利益分割法)、やTNMM(取引単位営業利益法:CPMにかえ、取引単位で営業利益を比較し、移転価格を決定する手法)に優先して適用することとされた。
      第4に、比較可能性分析(いずれの手法による場合も、各手法を適用しうる十分な条件が整っていることを確認した上で適用する)を行うことが明記された。この結果、米国によるみなし利益課税には大きな歯止めがかけられることとなった。

    2. 調査時効の延長に関しては、延長期間は最小かつ限定的であること、延長がなされる場合でも納税者の真に自発的な同意のもとでなければならないことが規定された。

    3. 資料提出に関しては、納税者自身が合理的な努力をすべきとした上で、税務当局も資料の必要性と納税者の負担を十分考慮すべきとした。特に申告時点で過度の要求をすべきでないとされている。

    4. 罰則については、誠意ある合理的な努力をした納税者に対して相当規模の罰を課すのは不公平であると明示した。これは米国の暫定規則に規定されているような過度の罰則を制限しているものと理解できる。

  3. 今後の課題

    米国は、今後公表される罰則の最終規則や今後の執行については新ガイドラインを踏まえたものにすると述べているが、実際の執行状況、最終的な罰則規則の内容等について、引き続き注視していく必要がある。

    また、OECDのガイドラインに関しては、無体財産、恒久的施設などの問題について、今後も検討を続けることとなっており、当会では引き続き、経済界の意見を反映させるべく、対応していく予定である。


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