競争政策委員会(委員長 弓倉礼一氏)/9月7日

競争法の国際的ハーモナイゼイション


競争政策委員会では、公正取引委員会事務局長、同委員を歴任し、現在中央大学法学部教授(三菱総合研究所顧問)として競争法の国際的ハーモナイゼイションへ向けて、活躍しておられる伊従寛氏を招き、OECD、WTO、APECなどにおいて、取組みの必要が指摘されつつある競争法の国際的調和をめぐる最近の動向について説明を聞いた。
以下は、その概要である。

  1. はじめに

    経済のグローバル化、相互依存関係の深化に伴い、国ごとに法律や制度が異なっていることによる弊害が次第に浮き彫りにされてきた。
    現在、世界50カ国以上で競争法が施行されているが、これらは「競争制限行為を規制して競争を促進する」という共通の目的を有しているものの、その規制内容・程度・方法・効果などには、その国の文化・社会・経済条件の違いから、かなりの相違がある。これらを整合性のとれたものにしていくことが、国境を越えて事業活動を行っている企業の立場から強く求められており、OECDや国際的な研究家グループなどで検討が進められている。

  2. 主要国の競争法の調整の必要性

    競争法のハーモナイゼイションが必要とされる理由には、主に以下の3点が考えられる。
    (1) 貿易摩擦の緩和
    経済摩擦が深刻化するにつれ、一国の競争政策がその国の市場への参入条件に与える影響が大きいことから、競争政策がその摩擦の一因として指摘され始めた。例えば、日米構造協議では、日本市場の閉鎖性の原因として政府規制とともに排他的な企業慣行が指摘され、それらの改善策として規制緩和と独禁法の運用強化が米国側から強く求められている。

    (2) 企業活動の円滑化
    規制緩和により許認可などによる事前規制がなくなると、競争法のような事後規制を適用する必要性が増し、その適用範囲も拡大してくる。国境を越えて事業活動をしている日本企業は、例えば米国では米国反トラスト法、欧州ではEU競争法と加盟国の競争法の適用を受けており、それぞれがばらばらに規制することは、企業にとって大変な不利益になる。海外での事業活動を円滑で効率よく進めるためには、少なくとも日米欧の競争法を調整するか、その調整方法を整備しておくことが、喫緊の課題である。またその共通規則と運用手続は明確で、事前に公開され、企業による対応が可能でなければならない。

    (3) 域外適用問題の解決
    アルコア判決(1945年)で、外国企業の外国における行為の効果を自国市場に及ぼすことが外国企業によって意図され、かつその効果が実際に及んでいる場合には、反トラスト法を外国企業に適用できるという効果主義の考え方が示されて以来、米国は積極的に域外適用を実施してきており、本年4月に公表された国際的事業活動ガイドラインでも、その姿勢を明示している。
    EUでも木材パルプ事件中間判決(1988年)において、外国における外国企業の行為であっても、EU市場でそれが実施されている限り(例えば域外で結成された価格カルテルによって、EU市場での価格が引き上げられた場合など)、EU競争法が適用できるとしている(客観的属地主義)。日本の公正取引委員会の渉外問題研究会の報告書(1990年)でも同様の見解が表明されている。
    今後は、競争法の域外適用が一層広がるであろう。域外適用については、日米欧は、それぞれその程度や範囲についての考え方を異にしているものの、経済がグローバル化している現在、その必要性は認識されており、既にその運用調整を図る段階に入ってきている。

  3. ハーモナイゼイションの方法

    (1) 国際統一独占禁止条約構想
    1947年の国際貿易憲章(ITO)は、国際取引に影響を及ぼす競争制限的または独占的な事業慣行を防止するための規定をおいていたが、同憲章は結局批准されず、国際的な独占禁止規制は実現しなかった。しかし、現在、WTOの次期ラウンドで、競争政策が取り上げられる可能性が高まるなか、民間レベルで国際独占禁止協定草案が発表されるなどいくつかの構想が現れている。

    (2) OECD国際協力手続
    OECDでは加盟国が競争法を施行する場合の加盟国間の協力にあたっての通報と協議に関する手続を定めた理事会勧告を出しているが、これらはいずれも任意であり、協議手続については殆ど用いられていない。

    (3) 2国間競争法運用協力協定
    OECD加盟国間では2国間で競争法運用協力協定を締結している場合もあり、関係事件の相互通報、情報交換、施行や運用上の協力や調整、相手国のための自国での競争制限行為の規制に関する協力などが定められている。1994年11月に米国は国際反トラスト執行援助法を制定し、機密情報相互提供を含む独禁法協力協定の推進を図っている。また、オーストラリア・ニュージーランド間で1990年に締結された経済関係緊密化貿易協定は、両国間の貿易におけるダンピング規制の撤廃と競争法を相互に適用することを定めている。日本は、現在、どこの国とも2国間協定を締結していないが、米国・EU・ドイツ・フランス・韓国と2国間定期協議を行っている。

    (4) WTOでの競争法問題
    WTOを中心とした競争法のハーモナイゼイションの手法として、競争政策局を設置し、調査権限を与え、その後漸次カルテル禁止などを協定していくというものや、WTOの紛争処理手続を利用しようとする構想がある。


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