APEC賢人会議に関する説明会(座長:立石アジア委員会委員長代行)/9月18日
ドライデン・スプリング卿との懇談会(座長:大河原特別顧問)/9月19日
APEC賢人会議代表(日本・ニュージーランド)と懇談
経団連では、APEC賢人会議代表の山澤一平一橋大学教授(9月18日)とドライデン・スプリング ニュージーランド酪農公社会長(9月19日)を招き、賢人会議での議論の模様と、8月30日に村山首相に提出された第3次報告書の概要について説明を聞くとともに懇談した。
- 山澤教授説明要旨
賢人会議の第3次報告では、4つの重要な問いを首脳に提起した上で、その対応案を示した。
- 第1は、ボゴール宣言で提唱した「貿易・投資の自由化」の、具体的内容は何かという問いであり、GATTウルグアイ・ラウンド合意の着実な実行、さらにはその前倒し(実施の加速化)を行うべきである。
その方法として、「50%ルール」(例えば、関税引下げや農業補助金削減の期間をウルグアイ・ラウンド合意の半分にするなど)を提案した。ただし、その適用については、各国・地域の事情に配慮して、各国・地域が自発的に対象分野を選ぶことにした。
- 第2に、域内の紛争に如何に対応するか。
APECでの紛争処理については、昨年の報告で提案し、ボゴール宣言に盛り込まれた「紛争仲介サービス」の内容を詰めて、首脳に提案した。APECの「紛争仲介サービス」はWTOの紛争処理手続きと違って、共通のルールや法的拘束力はなく、2国間の話し合いに第3国が入ってサポートするという性格をもつ。
- 第3に、APECを通ずる貿易・投資の自由化とNAFTA(北米自由貿易協定)、AFTA(ASEAN自由貿易地域)、CER(豪州・ニュージーランド経済緊密化協定)等の域内地域貿易協定(以下SRTA)との整合性をどう見るか。
SRTAでの自由化の推進は、APECの自由化に資するというのが賢人会議の基本的な考え方である。関税の引下げ、非関税障壁の撤廃は、グループ内だけで行われ、域内には適用されず、差別化を生む可能性があるが、ルールの透明化等ビジネス円滑化の取組みは、域内外が等しく稗益するものである。ただし、SRTAでの自由化は「開かれた準地域主義」によるべきである。ここでは各SRTAのメンバーは、域内の自由化の成果を域外に対して、無差別の最恵国待遇で適用してもよいし、特定の非メンバーに相互主義ベースで条件付きで適用してもよい。
日本はこれまでGATT・WTOを中心とする世界規模での自由化を政策の中心としてきており、地域統合で自由化を目指すアプローチには懐疑的であったが、APECにおいて、この考えは少数派であることを認識する必要がある。APECメンバー18カ国・地域のうち、12は何らかのSRTAに加盟している(加盟していないのは、日、中、韓、台湾、香港、パプア・ニューギニア)。マジョリティの考えは、APECでの自由化が停滞した場合、各SRTAで自由化するというalternativeなものである。SRTAでの自由化に対し日本は警戒感を抱いているが、各SRTAでの自由化の努力に比べて、日本は国内の規制緩和をはじめ自由化への取組みが各論レベルまで浸透していない。
地域貿易協定のGATT・WTOとの整合性については、GATT24条の規定が曖昧で、理論的にはっきりしないので、それに則して議論できない。むしろ各SRTAの運用実態で差別化が増さないようレビューし、問題が明らかになったときに対応するのが実際的なアプローチであろう。
- 第4に、APECで合意した目標に向けて、具体的にどのように協力していくのかという問題を提起し、金融ならびにマクロ経済政策協力と開発・技術協力を提案した。前者はメキシコの通貨危機(94年末〜95年初) のような事態の再発防止を目的としている。後者については、米国とアジア諸国に基本的な考え方の相違があることを考慮し、2国間の経済協力をそのままAPECに持ち込むのではなく、全メンバーが資源、人材、技術等を持ち寄って、ニーズを明確化した上でプログラムを立案し、世銀、アジア開発銀行、各国等の資金を得て実施すべきである。
- ドライデン・スプリング会長説明要旨
- GATT・ウルグアイ・ラウンドでは、工業製品の貿易の自由化、繊維等困難な問題への対処、WTOの設立等、かなりの成果を達成した。例外は農業分野への対応である。輸出補助金の削減、市場アクセスの改善等の成果はあったものの、依然としてEUをはじめとする各国で手厚い保護が加えられている。
- GATT・WTOでは、「より自由な」貿易を目指した交渉が行われているが、APECでは、「完全に自由な」貿易(サービスを含む全産業分野の関税撤廃、非関税障壁の除去等)を目指している。賢人会議では、大阪会議に先立ちAPEC首脳に報告書を提出した。この提言の中で最も重要なのは、ウルグアイ・ラウンド合意の実施を加速化すべきというものである。
- 日本とニュージーランドは60年代から良好な貿易関係を維持している。ニュージーランドは日本への酪農製品の最大の輸出国である。円高、ウルグアイ・ラウンド合意、日本の流通機構の変化等により、両国間の酪農製品の貿易は一層拡大する可能性があるが、酪農製品に対する日本の高関税(バター 583%、全粉乳 322%)がそれを妨げている。
- 質疑応答
- 経団連側:
- 大阪会議で、ウルグアイ・ラウンド合意の前倒しのような「手付け金」を払った後、自由化達成まで何回支払いがあるのか。
- 山澤教授:
- 現在、大阪会議で公表する自由化、円滑化の「Initial Action」がAPECの高級事務レベルで議論されており、これが「行動指針」の中心になるだろう。具体的な自由化計画は来年のマニラ会議でまとめるというのが現時点の案だ。最初の4〜5年はかなり具体的な目標が出されるが、2000年頃にもう一度レビューし、計画をたて直す必要があろう。
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