日本・香港経済委員会(委員長:秋山富一氏)/9月25日

中国返還後も高度な自治を維持する香港
―アンソン・チャン行政長官との懇談会


香港は97年7月1日、中国に返還されるが、返還後を視野に入れて香港政庁は9月25日〜29日、東京、大阪、福岡において「香港プロモーション1995」と題するキャンペーンを開催した。
経団連、日本・香港経済委員会は同プロモーションの開催に協力するとともに、それに先立ち、香港から来日したアンソン・チャン行政長官を招き、最近の香港情勢や今後の展望について説明を聴いた。

アンソン・チャン行政長官アンソン・チャン行政長官

  1. 香港経済の現状と見通し
  2. 今後の中期的な実質GDP成長率見通しは5%程度になるだろう。現在、消費者物価上昇率は8%程度だが、経済のファンダメンタルズは基本的に良好であり、輸出も堅調、外貨準備高も潤沢である。
    昨年6月、不動産価格の高騰に対して価格抑制措置を発表した。その後、不動産相場は鎮静化している。不動産価格の低下は、香港で事業をする際のコスト軽減に繋がる。今後とも不動産相場の動向は注意深く見守っていく。

    香港の実質GDP成長率と消費者物価上昇率

  3. 香港の政治情勢
  4. 9月17日の立法評議会議員選挙(定数60)は秩序のうちに行われ、透明性の高いものであった。民主派が25議席(民主党19議席、香港民主民生協進会4議席、その他無所属2議席)と約半数を占め、親中国派、保守派(民主建港連盟6議席、自由党9議席)は伸び悩んだ。
    選挙のプロセスと結果をみれば、香港の議会制度はいままでよりも民主化が進んでいることがわかる。中国は、「今回の選挙は中英共同宣言と基本法に違反するものであり、選挙結果は容認できない」と言っており、97年7月以降、新たな議会を設けると主張している。われわれは中国の見解に賛同していない。選挙は共同宣言や基本法には違反していないし、開かれた形で実施された。中国としては、今後の立法評議会の動きをみて、将来の立場を決めようとしているのではないかと思う。
    香港政庁としては、今後とも立法評議会と協力して円滑な政策運営を進めていきたい。香港の繁栄を維持するという点で、香港政庁と立法評議会の目的は同じである。

  5. 中国との関係
  6. 一般的に中国とは良好な関係を維持している。終審裁判所(最高裁)の設置、新空港の財務計画について中英間で合意をみた。特に終審裁判所に関する合意は、返還後も法の支配が確保されることを意味しており、コモン・ローによって香港が運営されることを保障する。香港は高度な自治を確保できる。
    今後、中国との間で、裁判所の用地の確保など、具体的な措置や手続きについて、話し合いを進めていく。今年10月には、中英外相会談で具体的な返還手続きを詰めるが、相互に協力して、円滑に作業が進むよう努力する。
    返還後の香港政庁の公務員については、「香港特別行政区基本法」(90年)の規定に基づき、まず行政長官を選任し、行政長官が主要政府職員を指名する。返還後の行政長官は96年後半には決まるだろう。その他のほとんどの公務員は、返還以降も継続性が維持される。96年1月に「香港特別行政区準備委員会」が設置され、特別行政区の形態について検討を進めることになっている。パッテン総督は、準備委員会に支持される行政長官が選任されれば、全面的に協力すると言っている。なお、旅券については、返還後も現在の水準と質が維持される。

  7. 今後の展望
  8. 返還に向けて中国との関係はさらに深まるだろうが、香港政庁の究極的な目的は、行政上、法律上を問わず、将来においても現在の香港のメカニズムを維持することである。「中英共同宣言」(84年)と「香港特別行政区基本法」(90年)に基づき、自治が確保されることを確信する。
    中国も、香港が返還後も自由経済を維持し、繁栄することを望んでいる。香港と中国との経済関係は拡大しており、今後とも拡大することは間違いない。自由を維持し、経済、金融の面における現在の慣行を存続させることで、今後とも香港は繁栄を続けよう。香港は中国の窓口として、優れた投資先であり、アジア太平洋地域における貿易の中心地である。この香港の役割は米国、日本、欧州諸国によって十分に認識されている。
    日本の経済界からも中国に対して、中英共同宣言と基本法の遵守を働きかけてくれれば幸いである。自由を維持することの重要性を中国の経済人や政府高官に伝えてほしい。また、日本政府からの多大な支援に感謝している。
    中英間の話し合いに関する情報は、これからも提供したいと思う。


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