OECD諮問委員会(委員長 行天豊雄氏)/9月25日

米国の移転価格税制には引き続き警戒が必要


このほど確定した移転価格に関するOECD新ガイドラインは、企業の海外活動にも影響を与えることから、策定に際しては民間の見解が重視され、経団連もBIAC(OECDに対する産業界諮問機関)を通じ意見を表明してきた。BIAC税制委員会の五味雄治副委員長(中央監査法人特別顧問)は、CPM(利益比準法)を排しTNMM(取引単位営業利益法)を新たに導入した経緯を中心に以下のように報告し、今後、米国での運用を監視していく必要があると述べた。

  1. TNMMの導入
  2. 94年7月の新ガイドラインの基本論部分公開から1年後、本年7月の確定直前になって交渉を難航させたのが、CPMのTNMMへの変更であった。同種の企業・産業間で比較するCPMに対し、TNMMは同種の取引で比較することとし、比較対象性についても厳格な基準を課す。
    CPMを幅広く利用してきた米国は、TNMMを厳格に解釈すれば、データ収集の困難などから実際の運用は不可能として難色を示したが、最終的にこれを受け入れた。

  3. 米国の国内事情
  4. 米国内では、外資系企業の納税額がここ十数年伸び悩んでいることから、独立企業原則の放棄、ユニタリータックスの導入など、外資系企業に対する課税強化について、議会からの強い要求がある。今回、TNMMをめぐる合意に失敗すれば、独立企業原則の信頼性が揺らぎ、この圧力がさらに強まるおそれがあった。連邦租税当局は、二重課税回避のための各国間のコンセンサスを重視しており、独立企業原則の放棄には反対であった。そこでガイドラインを楯に議会を抑えこもうとするねらいがあったと考えられる。
    ただし外資系企業の納税額が伸びなければ、再び議会の圧力が強まることは必至である。米国では、RP(再販売価格基準法)やCP(原価基準法)も実際には企業・産業間での比較が用いられていることから、TNMMも幅広く解釈し、従来のCPMと同じように運用しようとする可能性が大きい。

  5. BIACの主張
  6. BIACとしては、独立企業原則に反し取引単位から逸脱するCPMには一貫して反対しており、TNMMへの変更により企業・産業単位を排除したことは評価する。
    ただしTNMMは新しい方式なので、各国が異なる解釈で執行した場合、対応的調整ができず二重課税が生じる可能性がある。これを回避するために強制的な仲裁手続を整備する必要があると考える。
    前述したように、特に米国におけるTNMMの運用には警戒が必要であり、OECDによるモニター制度を設けるべきであろう。ガイドラインはルーズリーフ形式で、漸次改訂可能になっている。民間企業も個々のケースに疑問を感じた場合は、BIACを通じてOECDに通報し、改善を求めていくことが肝要である。


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