スタンフォード大学クルーグマン教授との懇談会(司会:槙原アメリカ委員長)/9月21日

現時点の適正為替レートは110円前後


アメリカ委員会では、国際経済学の第一人者であり、現在最も影響力のあるエコノミストであるスタンフォード大学のポール・クルーグマン教授を招き、為替の動向や日本経済の現状について同教授の考え方を聞くとともに、種々懇談した。
以下はクルーグマン教授の発言概要である。

  1. 為替レートの決定要因
  2. 為替レートの分析手法には、大きく分けて国際収支アプローチと購買力平価アプローチがある。国際収支アプローチの立場からは、日米の経常収支不均衡を理由に、1ドル80円台で推移していた時ですら、さらに円高が進むとの見方が出されていた。しかし、この分析で欠けていた視点は、日本で10%もの需給ギャップが存在することを見過ごしていたことだった。
    伝統的な購買力平価説からは、1ドル170円程度が妥当との印象を与えるが、生計費を決定するものは、労働生産性である。この観点から、日本経済は極めていびつな形となっている。平均的にみると日本人の労働生産性は、米国人のそれより20%程度低い。特に、サービス部門が極めて非効率であるが、一方で自動車、民生エレクトロニクス等の分野は効率性が高く、米国の労働生産性を上回っているのである。
    日本は、非効率な部門を抱えているため、貯蓄に見合う投資機会が少なく、収益率も低い。現時点での適正レートは、1ドル110円プラスマイナス15円のレンジと試算される。このレベルで推移すれば日本の経常収支も収れんしていくだろう。

  3. 米国の金融政策
  4. 一般に、クリントン政権は円高を手段として日本を変えようとしていると言われるが、そのようなことはない。米国の金融政策は、ドルレートを下げるために用いられることはなく、あくまで国内事情をにらみながら運営されている。同政権に為替レートに関する具体的政策はないと言える。

  5. 米国の政策は変わったか
  6. 最近のドル高の背景として、米国が基軸通貨国として自国通貨の価値を守る必要性が指摘されているが、そのようなことはない。基軸通貨国であるからといって、経常収支赤字をファイナンス出来るわけでなく、立場を維持するメリットはない。米国は、日本経済の先行きに懸念を持っており、日本の輸出対GDP比が米国と同程度に低いことから、景気回復のためには内需主導型でなければならないとの認識がある。
    現在の日本経済は危険な状況にあるが、こうした事態を招いたのは、長期間にわたる不況が続いたため、そのリスクの重大さに気付かず、政策対応が遅れたからである。


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