「日米欧の競争法のハーモナイゼイション」東京シンポジウム/10月13日

日米欧の競争法専門家が一堂に会し、競争政策の国際的調和をめぐり意見交換


グローバル化した市場経済の中で、各国の競争法の間に規制内容・方法などについて差があることが、国際的な企業活動の障害となり、新たな経済摩擦の要因となっている。そこで、経団連では、中央大学日本比較法研究所と米国ワシントン大学東アジア法研究所との共催による標記シンポジウムの開催に協力した。その概要は以下の通り。

  1. 公正取引委員会小粥委員長あいさつ
  2. 日米欧の競争法の間には、どのような行為が競争制限にあたるかという基本的な部分についてはおおよその整合性があるが、その執行については依然隔たりがある。そこで執行レベルでの国際協力が非常に重要になってくる。公正取引委員会としては、国外の行為によって自国内に競争制限効果が及んだ場合は、原則として行為地での独禁法に基づいて執行するのが最も適切であり$域外適用するのではなく、まず所管する当局に厳正な独禁法の執行を要請すべきであると考える。そのためにも平素からの相互協力が不可欠であり、適切な調整の枠組みとしては本年改訂されたOECD理事会勧告による通報・情報交換についての協力手続が考えられる。二国間の定期協議、OECDの競争法政策委員会の場も有効である。

  3. 競争法ハーモナイゼイションの必要性
    1. 日本 ― 伊藤元重(東京大学経済学部教授)
    2. 国内での競争条件の違いが国際通商に影響を与え、通商措置が反競争的影響を持つことが多くなってきている。競争法上規制すべき行為の定義も、時代背景や社会・経済構造により異なるため、その調和は非常に難しいが、競争法は経済全般に与える影響が重大であることからハーモナイゼイションは不可欠である。

    3. 欧州 ― ウルリッヒ・イメンガ(ドイツ/ゲッティンゲン大学法学部教授)
    4. 一国の競争当局による国際的競争制限行為に対する有効な規制が不可能な現在、競争と貿易両政策間のインターフェイスの問題が生じている。各国間で合意可能なハードコアのカルテルについては国際的反トラスト協定で規制し、少なくとも手続規定をハーモナイズすることが急がれる。競争の維持は通貨の安定と同程度の価値をおかれるべきである。

    5. 米国 ― デイヴィッド・ガーバー(シカゴ・ケントカレッジ法学部教授)
    6. ハーモナイゼイションの過程で、言語以外のコミュニケーション機能不全の問題がある。その原因はハーモナイズの対象たる規律(norms)と手続(forms of procedures)に対するそれぞれの考え方が違っていることにある。考え方の相違を認識した上で、ギャップを埋めていくことがハーモナイゼイションの第一歩となる。

    7. 産業界 ― 弓倉礼一(経団連競争政策委員会委員長)
    8. 各国の競争法制及び手続規定が異なることが自由な事業活動を阻害しており、無駄なコストも生じさせている。域外適用については国際礼譲を尊重しながら、多国間協議を通じた解決を図ることが重要である。また、競争政策と貿易政策の整合性が図られねばならない。

  4. 競争法ハーモナイゼイションの方法
    1. 競争法の調整(国際私法の視点から)
      ― 山内惟介(中央大学法学部教授)
    2. 国際租税法の事前確認制度のように、当該国競争法で違反とされる行為のガイドラインを示すことによって、執行段階での相違に起因する摩擦が事前に防げるだろう。また、競争当局の現場レベルでの人的交流および経済法の民事法化、つまり相互の抵触規定を用意しておき、相互の内国法の均等化を図ることが必要でないか。各種国際独禁協定案を実験的に運用してみるのも一手である。

    3. 国際独禁法協定等による競争法の調和
      ― ヴォルフガング・フィッケンシャー(ドイツ/ミュンヘン大学法学部教授)
    4. 1993年に発表された民間学者グループの国際独禁法協定案の特徴は、条約アプローチ(convention approach)、つまり(1)国内法の適用、(2)内国民待遇、(3)ミニマム・スタンダード(各国で一致している違反行為"consensus wrongs"についての規定)、(4)適用についての手続規定、(5)国際的な事例のみの取扱いである。ハヴァナ憲章のような統一的な協定によらず各国の国内競争法を尊重することによって、摩擦を最小限に抑えることができる。

    5. WTOにおける競争法の調和
      ― クリストファー・ケイン(米国/弁護士)
    6. WTOでのハーモナイゼイションについて検討する前に何をハーモナイズするかについて各国間で合意しなければならない。事実認定機関、そして各国で一致している競争法違反行為について規制するミニマリスト・アプローチの推進役としての役割がWTOには期待される。

    7. 市場アクセス改善と競争法の調和
      ― ハリー・ファースト(米国/ニューヨーク市立大学法学部教授)
    8. 市場参入条件の確保は反トラスト法の中心的目的だが、この点は見過ごされがちである。市場における「失敗した競争者」と「排除された競争者」を区別することと同時に、市場における競争者による新規参入排除メカニズムを証明することが、市場アクセスに関する反トラスト法を執行するにあたって最も困難な課題である。

    9. EUにおける競争法の調和
      ― ハンス・ウルリッヒ(ドイツ/ブンデス・ヴェール・ミュンヘン大学法学部教授)
    10. EU域内ではEU規則が直接適用可能であるが、執行についてはEU競争当局の広範な管轄権とその限られた執行手段の間にギャップが存在するため、法的不安定が生じている。各国内法にはこのギャップを埋める役割が期待されるが、例えば各国市場毎に不公正な競争についての認識に隔たりがあり、統一を図るのは困難である。


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