産業政策委員会報告書(委員長 青井舒一氏)/10月13日

2010年の産業構造を展望
「日本産業の中期展望と今後の課題」を取りまとめ


産業政策委員会では、21世紀を間近に控えた今、わが国産業をとりまく環境の変化ならびに産業界が直面する諸問題を明らかにし、その対応策を提示すべく、昨年8月より政策部会(部会長 宮内義彦氏)において検討を進めてきたが、10月13日に委員会を開催し、「日本産業の中期展望と今後の課題」と題する報告書を取りまとめた。経団連では総合対策委員会において、12月中を目処に、2025年のわが国経済・社会のビジョンをとりまとめつつあるが、産業構造の視点から2010年までを展望した本報告書は、2025年ビジョンの一環をなすものである。

〔第1部〕総論

  1. 変革を迫る内外の環境変化
  2. 日本経済は、戦後50年の節目にあたり、
    1. 経済のグローバル化の進展、
    2. アジア経済の発展、
    3. 情報ネットワーク化の進展、
    4. 経済の高コスト構造、
    5. 日本的雇用慣行の変化、
    6. 金融・資本市場の低迷、
    7. 地球環境問題の深刻化、
    等戦後最大の環境変化に直面している。

  3. 創造と挑戦の経営による産業の高度化
  4. こうした環境変化に対応するために、各企業は、
    1. リストラ、リエンジニアリングの推進、
    2. 技術開発の促進、
    3. 情報ネットワークの活用、
    4. 国際戦略の展開、
    5. 新産業・新事業への挑戦、
    6. 流通・物流の効率化、
    7. 地球環境問題への取組み、
    等創造と挑戦の経営を推進し、産業の高度化を図らねばならない。

  5. 構造改革による新しい産業基盤の整備
  6. 企業努力や創意工夫が実を結ぶためには、経済構造の改革による産業基盤の整備が不可欠であり、政府は、
    1. 景気対策の着実な実施、
    2. 規制の撤廃・緩和、
    3. 企業活力の発揮に向けた税制の見直し、
    4. 新しい社会資本の整備、
    5. 新産業・新事業への支援、
    6. 人材の流動化推進と人材育成・再教育への支援、
    7. 環境問題解決のための研究開発と途上国への環境協力、
    等に早急に取り組むべきである。

  7. 2010年の産業構造の展望
  8. (1)企業努力と経済基盤の整備が順調に進み、構造改革が実現した場合(望ましいシナリオ)
    2000年に向けて内需主導により3%成長の軌道を描き、2010年まで3%強の成長が続く。失業率も3%台半ばをピークに2%近くへ低下してくると予想される。その場合の産業構造は、製造業については加工業種が底固く推移する一方、素材型産業がゆるやかにウエートを低下させ、全体としてのシェアはわずかに低下する。その分、非製造業がシェアを高め、特に規制緩和の効果が最も大きいと思われる商業、通信、個人に対するサービス、などが大きく上昇する。

    (2)現状のまま推移した場合(空洞化シナリオ)
    輸出ドライブが働く一方、輸入が増えず、円高が一時的に大幅に進行する。成長率は、そのデフレインパクトも加わって、1%台に低迷すると予想される。失業率も、労働人口の減少にも拘わらず、長期的にも3%台後半から4%程度の高水準に止まる。産業構造については、円高によって生産の海外移転が加速されることから、製造業は加工型、素材型ともにシェアをさげ、産業全体に縮小均衡の圧力が働く。

      2010年の産業構造につき、マクロモデルと産業関連表を使い、2つのケースにつき予測した。
    
     (1)構造改革が実現した場合(90年価格、兆円) (2)現状のまま推移した場合(90年価格、兆円)
    ┌─────┬───────┬───────┐┌─────┬───────┬───────┐
    │     │1990年時点│2010年時点││     │1990年時点│2010年時点│
    │     │総生産(シェア)│総生産(シェア)││     │総生産(シェア)│総生産(シェア)│
    ├─────┼───────┼───────┤├─────┼───────┼───────┤
    │第1次産業│ 20.0  ( 2.3%)│ 16.3  ( 1.2%)││第1次産業│ 20.0  ( 2.3%)│ 14.4  ( 1.3%)│
    │第2次産業│325.8  (37.4%)│443.0  (34.1%)││第2次産業│325.8  (37.4%)│333.4  (31.0%)│
    │ 加工型 │132.6  (15.2%)│197.1  (15.2%)││ 加工型 │132.6  (15.2%)│152.3  (14.2%)│
    │ 素材型 │160.8  (18.4%)│228.3  (17.5%)││ 素材型 │160.8  (18.4%)│166.3  (15.5%)│
    │第3次産業│520.6  (59.7%)│839.8  (64.6%)││第3次産業│520.6  (59.7%)│725.2  (67.5%)│
    │分類不明 │ 5.8  ( 0.7%)│ 1.7  ( 0.1%)││分類不明 │ 5.8 ( 0.7%)│ 1.7 ( 0.2%)│
    ├─────┼───────┼───────┤├─────┼───────┼───────┤
    │合計   │872.2 (100.0%)│1300.7(100.0%)││合計   │872.2 (100.0%)│1074.7(100.0%)│
    └─────┴───────┴───────┘└─────┴───────┴───────┘
    

  9. 結論
  10. 現在、日本企業は生き残りをかけて地球規模での資源配分の最適化を目指している。規制による高コスト構造が、本来競争力のある産業の海外シフトを助長しており、現状の打開に向けて有効な手だてが講じられなければ、わが国は空洞化シナリオに陥り、雇用を維持できなくなるおそれがある。こうした事態を十分踏まえ、政府にあっては、規制緩和、税制改革等の構造改革を断行し、民間としては、自己責任原則の下で、新事業や独創的な技術開発に挑戦し、自由で活力のある経済を創造すべきである。

〔第2部〕各論

22業界からのヒアリングをもとに、各業界の現状と課題、中期展望、ならびに政策への提言・要望を取りまとめた。


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