日本ベトナム経済委員会(進行 荒木正雄インドシナ研究会座長)/10月17日

ベトナムにおける最近の物価情勢


ベトナムは今年7月、米国との国交正常化とASEAN加盟を達成した。これは同国を取り巻く対外環境を一段と好転させ、経済成長の追い風となっている。その一方で成長の加速に伴い、インフレ再燃の兆しも見られており、ベトナム政府にとっては、マクロ経済の一層の安定と残された課題の解決に向けて、きめ細かな政策対応が求められている。そこで、最近におけるベトナムの経済情勢とともに経済安定化への政府の取組み状況などについて、ベトナム政府物価委員会のチャン・クァン・ギエム委員長、ヴー・クァン・トゥイェン共産党中央委員会経済局副議長から説明を聴いた。

  1. ギエム物価委員長の発言要旨
  2. ギエム委員長ギエム委員長

    1. 堅調な推移を見せるベトナム経済
    2. 現在、開催されている国会で、96年〜2000年の経済開発5カ年計画が策定されることとなっている。
      91年〜95年の年平均経済成長率をみると8.2%であり、この間の各セクターの成長率は工業13.3%増、農業 4.5%増、サービス産業12.3%増となった。食糧生産は5年間で26%伸び、輸出は年平均約20%で増加している。この結果、ベトナム経済に占める工業、農業、サービス業の割合は大きく変化し、最近では工業部門が農業部門を上回るようになった。国内の貯蓄率も徐々に増加したため、国内投資が増え、財政赤字も縮小傾向にある。

    3. 食糧生産の不振とインフレの再燃
    4. ベトナム経済は概して良好に推移しているが、問題も残されている。一時は3桁になったインフレは現在10%台にまで低下したが、経済成長に伴い再び上昇圧力が高まっている。92年の消費者物価上昇率は17.5%、93年は5.2%にまで低下したが、94年には14.4%に反転した。これは通貨増発による財政赤字の補填によるものであるが、このほか大型台風がもたらした農業生産への被害も無視できない。洪水の被害は南部ではそれほど深刻ではなかったが、北部では甚大な損害が発生し、南部から北部に食糧を輸送した。
      94年は世界的にも農業生産が芳しくなく、それまで食糧輸出国であった国も輸入国に転じた。例えば、インドネシア、フィリピン、マレーシア、中国などである。中国一国だけで膨大な量を輸入するが、中国は昨年だけでなく、今年、来年と食糧輸入をすることとしており、食糧の国際価格は上昇している。ベトナムは米の3分の1を中国に輸出している。食糧価格の上昇は一面では喜ばしいことだが、それに伴い国内価格も上昇するのは問題である。94年に食料品価格は30%も上昇した。
      94年に引き続き、95年上半期も食糧価格は上昇を続けた。米の価格が上がると、豚肉の価格も上昇する。94年〜95年は資本財の価格も国際的に上昇し、ベトナム経済の好景気とも重なり、国内物価を煽った。しかし、食料品以外の工業製品やサービス価格については比較的安定している。
      今年7月〜9月期の消費者物価上昇率はほぼ横這い状態になったことから、物価上昇圧力は鎮静化したと思う。昨年は米不足が深刻であった北部でも米の収穫を終え、食料品の価格も低下している。洪水や干ばつなどの天災による被害がなければ、物価は安定するだろう。

    5. 二重価格の是正と価格決定
    6. ベトナムでは現在、鉄道、飛行機、ホテルなどについて、外国人とベトナム人とで適用される料金が異なっている。これは外国人に比べて、ベトナム人の平均的な所得水準が低いことと関連している。運賃や電力などの公共料金については、経済全体に大きな影響を与えるので簡単に値上げはできないが、今後は少しずつ双方の価格差を縮小していきたい。
      計画経済体制のときには物資は配給されていたため、価格はすべて政府が決定していた。その後、市場経済に移行してからは、原則として政府による価格統制はなくなった。それでも電力や郵便料金など一部に公定価格が残っている。航空運賃のほか、ガソリン、鉄鋼、セメント、紙などについても政府が価格の上限を決めている。米、砂糖、肥料については基本的には市場に任せているが、政府は価格の方向付けを行なっている。例えば、砂糖の価格が上昇すれば、緊急輸入を行って価格を安定させる。逆に価格が下がりすぎれば、生産者の生活に悪影響が出ないよう対策を講じる。物価委員会は、物価の安定のためにどのような政策を採るべきかを政府に提言している。
      失業は大きな社会問題であるが、最近2〜3年の経済成長に伴い、失業率は低下している。ベトナムでは人口が年間200万、労働力人口が100万人の割合で増加している。昨年は130万人の雇用が創出されたが、人口の増加を抑えなければ、失業問題の根本的な解決にはならない。賃金は、能力や生産性に基づき各企業で自由に決めている。

  3. トゥイェン党経済局副議長の発言要旨
    1. インフラ整備
    2. インフラ整備の一環として、アジア開発銀行の融資で南北を縦断する国道1号を整備するなど、道路事情の改善に積極的に取り組んでいる。陸上輸送だけでなく、港湾についても大型の貨物船が入港できるように浚渫工事を進めている。また、ハノイやホーチミンの国際空港だけでなく、国内空港の充実にも努めている。日本のODA、世界銀行、アジア開発銀行等からの資金援助だけでなく、過去に例はないがBOTによるインフラ整備も検討している。

    3. 工業化と直接投資
    4. ベトナムは今後とも工業化を推進し、2000年にはGDPを90年の2倍にする計画である。そのためには年間9%〜10%の経済成長率を維持する必要があり、内外の資金を活用して投資を拡大しなければならない。450 〜500 億ドルの投資が期待され、援助資金のほか民間企業による直接投資も大きな役割を占める。日本からの直接投資は現在、台湾、香港に次いで第3位だが、近いうちに日本が第1位になるだろう。日本企業が進出しやすいように投資環境を整えたいと思う。


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