新産業・新事業委員会企画部会(企画部会長 古見多香郎氏)/10月16日

高業績達成と株式を用いた長期インセンティブ報酬制度


新産業・新事業委員会は、中間提言において、新産業・新事業の創出には社会・企業の中にリスクに見合う成功報酬制度を導入していくことが必要と指摘した。アメリカにおいては、株式を使用した長期インセンティブ制度の活用が、ベンチャー企業のみならず、既存企業においても社内に活力をもたらすと認識されている。そこで、KPMGピートマーウィック会計事務所の報酬・福利厚生コンサルティング部全米統括パートナー、ロイ・オリヴァー氏を企画部会に招き、株式を用いた報酬制度のあり方について説明を聞くとともに懇談した。

  1. ロイ・オリヴァー氏説明概要
  2. ロイ・オリヴァー氏ロイ・オリヴァー氏

    1. アメリカ報酬協会(ACA)と共同で行なった調査結果では、高業績企業は低業績企業に比べてエグゼクティブに対するインセンティブ志向がより強く、しかも報奨の対象者をかなり低い職階にまで広げている傾向にある。また、高業績企業は長期インセンティブ志向が強く、エグゼクティブも報奨制度の効果について認めている。

    2. 長期インセンティブ授与枠の拡大は、非常に明確な傾向である。全従業員に占める授与者の割合は、高業績企業の場合、1991年の16%が1994年には28%、低業績企業でも同7%が21%となっている。

    3. アメリカ企業の多くは、2〜3種類の長期インセンティブを採用している。ストックオプション/SARs(ストックアプリシエーション権)は長期インセンティブ報酬の中核をなしており、制限付ストック(権利行使までに一定の期間を設けるため、役員の引き止め効果がある)やパフォーマンスシェア(株式を用いず、現金で報酬が得られる)等は、それらと併用して用いられている。

    4. ストックオプションには、税法上の違いにより、奨励型ストックオプションと非適格ストックオプションとがある。奨励型は、権利行使後の株式保有期間については(AMT課税を除き)課税されず、売却時には授与時からの価値増加部分に対してキャピタルゲイン課税がある。非適格型は権利行使時に授与時からの価値増加分に対して通常所得として課税され、売却時には、権利行使時からの価値増加部分に対してキャピタルゲイン課税がある。

    5. 株式報酬の授与額は、業種および業績ごとに異なっている。製造/サービス業では、食品・薬品・化学業界の企業において大きく、小売業界は小さい。金融業界では、ハイパフォーマンスの企業の多い金融派生商品業界で、保険や銀行に比べて顕著に大きい。

    6. SARsとは、株式の価値増加分を現金により授与できる権利である。特徴として、
      1. 株式の売却を伴わない権利行使があり得る、
      2. 経費分の費用が加算される、
      といったことがあるため、最近はあまり採用されていない。

    7. ストックオプション制度は、信賞必罰の報酬体系を確立する。すなわち、低業績には低報酬、高業績には高報酬という企業業績とリンクした報酬体系であり、オプションの権利は自動的に得られるのではなく獲得するものということである。

    8. エグゼクティブによる自社株保有に対する議論は、企業の報酬委員会で最も議論される問題である。長期業績が視野に入ること、経営陣が株主の利益になるような意思決定をすること、役員の慰留効果があることはメリットである。しかし、役員がパフォーマンスを変えるほどのオプションの規模とはどの程度なのか、景気や金利等の外的要因が企業全体のパフォーマンスにどの程度影響を及ぼし、役員の責任はどの程度なのか、といったことは議論の余地がある。

  3. 懇談概要
  4. 経団連側:
    会社の業績向上は、役員や特定の人間だけの功績と言い切れるのか。
    オリヴァー氏:
    1994年度総オプション授与におけるCEO授与数の割合をみると、特定少数の人間に対してオプションを多く付与しているのは低業績企業である。反対に、高業績企業は多くの従業員に対してオプションを提供している傾向がある。

    経団連側:
    アメリカでは、自己株式の買い入れ消却が多いが、ストックオプションが普及していることと関連はあるのか。
    オリヴァー氏:
    相当数の自己株が売買されていることは事実だが、
    1. 役員は、限られた期間内でしか売買できない、
    2. インサイダー取引の禁止、
    3. 自己株式の買い入れ消却を行なうか否かは取締役会の決定に委ねられる、
    等の制限もある。

    経団連側:
    上場企業と非上場企業とでは、導入するインセンティブ制度に違いはあるのか。
    オリヴァー氏:
    ある。非上場企業の場合、株価の動きが不透明なことに加えて、多くのオーナーは株式を公開/売却する気がない。そのため、パフォーマンスユニットやファントムストックを採用し、自社株の価値が上場株式のように動くようにする。

    経団連側:
    オプションの権利行使時の株式の出所、即ち、金庫株と新規発行との比率についてうかがいたい。
    オリヴァー氏:
    新規発行が多い。そのため、既存の株主の持ち分が希釈化しないよう、予め一定量の株式を別枠で設定し、擬似的に市場に流通しているとの認識を周知しておく等の対策を講じる必要がある。


ロイ・オリヴァー氏
報酬制度および従業員福利厚生制度に関するコンサルティングを、GM、クライスラー、エクソン、チェースマンハッタン銀行、メーシー、アメリカンゼネラル保険、ハズプロ等、代表的アメリカ企業に行った実績を持つ。

KPMGピートマーウィック会計事務所
7万人以上のスタッフを擁する世界最大級の多国籍総合コンサルティングファーム。アメリカの報酬・福利厚生コンサルティング部は約500人のスタッフを擁する。


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