土地・住宅政策委員会(委員長 田中 順一郎氏)/11月6日

日本経済の長期的課題と資産デフレ問題


わが国経済はバブル崩壊に伴う資産デフレ問題に回復の目処が立っていないことなどを背景に、景気回復の鍵を握る設備投資や個人消費の立ち直りが遅れ、依然として先行きの不透明感を払拭できない状況にある。
そこで、土地・住宅政策委員会では、上智大学国際関係研究所の八代尚宏教授より、日本経済の長期的課題と資産デフレ問題について説明を聴き、土地・住宅政策に関する提言案のとりまとめの参考とした。

  1. 八代教授説明要旨
    1. 日本経済の制約条件
    2. 1992年以降、3年以上にわたって景気低迷が続いている。実質GDP成長率の内訳を見ると、公共投資は1992年には大きな寄与度となっていたが、94年から息切れ状態となり、95年にはマイナスに転じた。純輸出(輸出−輸入)は、これまで景気変動を緩和するクッションの役割を果たしてきたが、93年後半から不況期でありながらマイナスの寄与となっている。鉱工業生産の動きを見ると、90年終わりをピークに減少に転じ、93年終わりに底を打って回復に向かったが、94年夏ごろから下落している。
      今回の不況の深刻さはバブル景気の反動と見る向きが多いが、不況の間に十分な資本ストック調整が行われたにもかかわらず、このように長い足踏み状態に陥っている原因をバブルの後遺症だけで説明するのは難しい。
      東アジア諸国の技術水準が急速に向上するなか、わが国は「大競争」にさらされている。他方、人口高齢化という国内の制約条件もあって、わが国は高い成長を維持できなくなっており、経済の成熟化が起こっている。
      このような構造変革から、ひとつの仮説として1980年代の後半から成長率が既に屈折していると考えてみると、94年半ば頃からの「早すぎる景気後退」を説明することができる。
      わが国が今後成長を遂げるには技術進歩が必要であるが、現在の制度をそのままにしていたのでは実現できない。規制緩和や税制改正といった制度改革が必要なのはまさにこのためである。

    3. 制度改革の必要性
    4. 過去に合理性のあった規制でも経済環境の変化によって見直すことが必要である。消費者や雇用者の保護を行うにしても、政府規制より市場を通じた方がメリットがある。競争政策の促進は規制緩和と表裏一体の関係にあり、独禁法、PL法などは市場競争を促進するためにむしろ強化すべき分野もある。
      今後、労働需給は逼迫する方向にあり、雇用の流動化も進む。退職金制度は一種の賃金の後払い制度であるが、若年層から年俸制などの導入を通じ高収入を得たいという期待もあり、退職金に関する税制の再考も求められよう。
      企業活動の国際化も進んでおり、国際的に見てあまりに高い法人税は企業の海外移転を促進するだけである。所得税に関しても、垂直的な公平性とともに、同じ所得であれば同じ課税となるような水平的公平が確保されることが重要である。

    5. 土地・住宅分野の制度改革
    6. 土地に対する需要は、資産としての需要と生産要素としての需要に分けられる。
      大都市における過密の弊害は、規制でなく市場メカニズムを通じた方法で解決する方法がある。例えば、東京の高速道路の混雑解消にはロード・プライシングのように混雑時の料金等を引き上げるといった方法が考えられるが、こうした考え方は、東京や大阪の都心部の、言わば混雑している土地をいかに効率的に再利用するかにもあてはめることができる。
      固定資産税は行政サービスの対価や納税者の負担能力として位置づけられている。負担能力の観点から、農地や住宅に対する固定資産税は低く抑えられているが、現在の用途に応じた課税が今後も行われるならば現行の土地利用を固定化することになる。貴重な土地を使うからには社会的収益に見合った土地価格を決め、それに見合った負担をすることが重要である。
      現状、土地取引は投機防止対策として強化された譲渡所得課税によって凍結状態にある。譲渡所得課税を引き下げれば、土地の有効利用が今よりも進むことになろう。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    固定資産税を負担できれば高効率の土地利用をしていると言えるのか。
    八代教授:
    固定資産税の水準が妥当かどうかの判断は難しいが、今企業が苦しいのは固定資産税のためでなく、利益が上がらないからだ。固定資産税は重要な役割を果たしているが、一方で単に納税者の負担能力だけに着目しているような現行の地価税は廃止すべきだ。

    経団連側:
    地価は下がれば下がるほど日本経済にとってプラスだという意見があるが、どうか。
    八代教授:
    地価が下落を続けると、デフレ圧力が高まるので、どこかで安定させることが重要である。しかし、政府が下手に介入すればかえって価格調整を長引かせる惧れがある。


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