経団連訪欧ミッション(団長 豊田会長)/11月23日〜12月1日

パートナーとしての日本とヨーロッパ


経団連では、11月23日から12月1日にかけて、ベルギー、ドイツ、オランダ、デンマーク、イギリスにミッションを派遣し(団長:豊田会長、団員:関本、那須、青井、伊藤、樋口の各副会長、三好事務総長)欧州委員会・各国および経済界の首脳と懇談を行なった。諸会合においては、経団連側から、日本経済の現状と規制緩和などの構造改革へのわが国の取組みについて説明するとともに、EU側から、通貨統合、EU拡大など欧州統合の現状について事情を聞いた。また、今後の日欧のパートナーシップ構築について、意見交換を行なった。

  1. 概要
    1. 欧州委員会および訪問した各国とも、わが国に対して「協調的なアプローチ」を採用している。4年前のミッション時とは異なり、対日批判はほとんど聞かれず、逆に協力を呼び掛けられる場面が多かった。

    2. 欧州の「協調的アプローチ」の蔭には、わが国に対する強い期待と信頼がある。現在の良好な日欧関係を維持するためには、まず、この期待と信頼に応える必要がある。金融システムを含む現在の日本経済に対する不安を払拭し、規制緩和などを通じて経済の構造改革を実現させるとともに、APEC、WTO(世界貿易機関)などの場を通じ自由貿易を追求していくことが重要である。

    3. このため、経団連側からは、
      1. 日本経済の現状と景気対策、
      2. 金融問題への対応、
      3. 規制緩和など経済の構造改革への取り組み、
      4. APEC、WTOにおける自由貿易の立場からの取組み
      について説明し、理解と支持を得た。

    4. 日欧関係が、米欧関係、日米関係に比べて、希薄なことは否めない。日欧関係を長期的に発展させていくためには、
      1. 環境問題における協力、
      2. 人的交流の促進、
      3. 第三国市場協力、
      4. 産業協力、
      5. WTO/OECD(経済協力開発機構)の運営/ルール作りにおける協力、
      6. 研究開発、
      7. 欧州が関心を持っている国際問題への積極的協力(ボスニア・ヘルツェゴビナの経済復興支援など)、
      8. 規格基準・制度のハーモナイゼーション(知的財産権分野、電気通信分野など)、
      9. 規制緩和を通じた対日市場アクセスの一層の改善/日欧投資交流の促進
      を積極的に行なっていくべきである。

  2. 欧州委員会
    1. 欧州委員会関係では、サンテール委員長、ブリタン副委員長、クレッソン委員、クレンツラー対外総局長らと懇談を行なった他、欧州産業連盟(UNICE)と懇談した。

    2. 本年6月のカンヌでの欧州理事会で、99年1月の通貨統合の発足を確認している。12月のマドリッドでの欧州理事会で、具体的プロセスを合意する予定である。欧州通貨統合のための経済の収斂基準の達成度合については、各国ともインフレ率は低下傾向にあるが、財政赤字の削減を達成できる国は限られている状況である。英国の通貨統合への参加は不透明である。

    3. 対日関係については、米国の「対立的アプローチ」に対して「協調的アプローチ」を強調しており、対日要望も構造問題に着目している。日本の規制緩和に対して強い関心を有し、欧州委員会として対日規制緩和要望を提出しているほか、競争政策における対話推進、研究開発における協力を訴えている。

    4. なお、UNICEとの会合では、今後の協力を約した共同声明を採択した。

  3. ベルギー
    1. ベルギー関係では、アルベール国王に謁見した他、デハーネ首相、ベルギー産業連盟(FEB)と懇談を行なった。

    2. 欧州統合に対しては、欧州の首都「ブラッセル」を擁していることもあり、政府・産業界レベルでも、国民レベルでも積極的である。通貨統合参加のための経済収斂基準を達成するためには、財政赤字の削減が課題となっている。中東欧諸国へのEU拡大については、長期的には必要であるものの急ぐべきではない、というのが政府レベルの考えである。ベルギー産業界では、欧州統合が最終的に欧州連邦となることを希望している。

    3. ベルギー経済は、93年のマイナス成長から回復し、94年には実質2.3%の成長を記録している。この成長を支えているのは外需であるが、高失業率、社会保障制度改革など個人生活に不透明な要素が多く、個人消費は伸び悩んでいる。

    4. 対日経済関係では、日本からの投資を歓迎している一方、産業界では、日本への輸出、日本への投資に対する関心が高い。

  4. ドイツ
    1. ドイツでは、コール首相、キンケル外相、ドイツ産業連盟(BDI)、フォン・ピーラー・アジア太平洋委員会会長、ショメルス経済省次官などと懇談を行なった。

    2. 欧州統合の本質は政治統合であり、通貨統合はその前提条件にすぎないとの認識から、コール首相の強いリーダーシップの下に欧州統合を進めている。その原動力は、欧州の自由・平和へのドイツ国民の希求である。ドイツにとって通貨統合は必ずしも経済的利益のあるものではないが、欧州統合の代償としてであっても通貨統合を推進していく覚悟である。また、産業界も政府の姿勢を支持している。

    3. ドイツ経済は、93年のマイナス成長から、94年には実質2.9%の成長に転じた。旧東ドイツ地域の成長率は高く、実質 7.9%である。ドイツ経済の今後の課題は、
      1. 競争力を維持し、成長率を維持すること、
      2. 政府支出を削減し、金利を低下させること、
      3. 労働市場の硬直性など構造問題への対応
      である。

    4. 対日経済関係では、フォン・ピーラー・アジア太平洋委員会会長、キンケル外相が第三国における協力を訴えた。また、キンケル外相より、日本に進出を希望するドイツ企業への支援、ボスニア・ヘルツェゴビナ問題への日本政府の積極的な関与の要請があった。

    5. なおBDIとの会合において、環境問題に関する共同声明を採択した。

  5. オランダ
    1. オランダでは、コック首相、ヴェィエルス経済大臣、オランダ産業連盟(VNO−NCW)などと懇談した。

    2. オランダは自由貿易を標榜しており、欧州統合をリードしている。通貨統合についても、99年1月段階で参加すべく努力を行なっている。インフレ率、財政赤字、金利などは通貨統合参加のための収斂基準をクリアーしているものの、債務残高に懸念が残る。

    3. オランダ経済は、94年以降回復し、95年には実質3%の成長が見込まれている。

    4. 対日関係へのアプローチは積極的であり、オランダに欧州本部を置く日系企業も多い。ただし、日本との貿易投資にあたって、文化的慣習相違が取引きの妨げとなっているとの指摘があった。現在、大学院生を日本に留学させる計画を進めている。

  6. デンマーク
    1. デンマークでは、ラスムセン首相、ヤコブセン産業大臣、ヴォルク外務次官、デンマーク産業連盟と懇談を行った。

    2. デンマーク政府は欧州統合に積極的である。特に拡大に関心を持っており、中東欧にEUが拡大すれば、デンマークがEUの中心となることを強調している。通貨統合については、政府レベルでは、意欲的であるが、国民レベルでの支持が得られるかどうか不透明な要素も残る。

    3. デンマーク経済は、低迷から立ち直り、94年に実質4.4%の成長を記録し、95年も実質3.7%の成長率となる見通しである。

    4. 対日関係では、対日貿易黒字を計上していることもあり、良好である。ただし、11月から日本が発動した豚肉のセーフガードについては、不満を示している。また、日系企業の投資が少ないことに対しても懸念している。

  7. イギリス
    1. イギリスでは、メージャー首相、ヘーゼルタイン副首相、ラング貿易産業大臣、ナイト経済担当閣外大臣、英国産業連盟(CBI)などと懇談した。

    2. 欧州統合に関しては、自由貿易を推進する立場から取り組んでいる。外交政策、社会政策については、一義的には各国で行われるべきとの立場である。また通貨統合については、経済収斂基準をクリアーすべく政策運営を行なっているものの、イギリスとして参加・不参加を判断する段階にはないとの立場をとっている。

    3. イギリス経済は、過去100年で最もよい状態にあるというのが政策担当者の認識である。92年、93年の不況を克服し、94年は、外需、設備投資が景気を引っ張り、実質4%の成長を記録した。現在は景気の踊り場であり、個人消費がどれだけ伸びるかが今後の焦点である。

    4. 対日関係は極めて良好であり、日本企業の対英投資に対する感謝があらゆる会合で述べられた。
      日本市場に関しては、ウィスキーに対する酒税、成田空港の発着便の増加が要望された。


欧州産業連盟(UNICE)との共同声明(骨子・全文はこちら

  1. 経団連とUNICEは、日欧経済関係の進展と多角的貿易体制の維持・強化に関して協力してきた。
  2. 日欧の社会経済システムは、変化する世界経済への適応性をなくしている。
  3. 経団連とUNICEは規制改革・規制の簡素化のためのアクションが必要であると考えている。
  4. 1996年3月バンコクで開催される欧州アジア会合は両地域の関係強化の重要な第一歩である。
  5. 両団体は以下の事項について共通の見解をもつ。
    1. 多角的貿易体制を支持し、ウルグアイ・ラウンド合意の完全実施を求める。またウルグアイ・ラウンドで積み残された問題への取り組み、新規加盟国のコミットメントを支持する。
    2. 開かれた二国間・地域的枠組みは貿易投資を促進する。ただし、WTOに整合的なものでなければならない。
    3. 海外直接投資に関する多国間協定の策定を支持する。
    4. 両団体は、経団連とUNICEは、既存の人的交流プログラムを強化するよう政府に訴えていく。
    5. 日欧産業協力の強化を支持する。
  6. 両団体は、市場経済への移行に取り組んでいる国への協力を強化すべきことを主張する。
  7. 政府がこの提言を実施するよう両団体は必要な手続きをとる。

ドイツ産業連盟(BDI)との共同声明(骨子・全文はこちら

  1. 両団体は、環境税は、生産コストに与えるネガティブな効果に比べ、生態系保護に対する効果は極めて少ないことに合意する。
  2. 環境保護のためには、官民協力が重要である。地球温暖化防止に対しては自主的合意が重要である。
  3. 一国のみの努力や強制に基づくものは、地球温暖化防止に対する責任あるアプローチではない。環境保護に対しては、技術移転が重要である。
  4. しかし、技術移転のためには、適切な法的枠組みと政治的リーダーシップが不可欠である。日独の産業界は、CO2削減のための共同実施に協力する用意がある。
  5. 地球温暖化防止にあたっては、原子力エネルギーが重要である。


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