日本ベトナム経済委員会(委員長 西尾哲氏)/11月9日

投資環境の改善に向けて行政機構を統廃合したベトナム


ベトナムでは、10月3日から1か月の会期で第9期第8回国会が開かれ、96年〜2000年の次期5カ年計画の策定、行政機構の再編、民法の制定などを行った。そこで、ベトナムの対日政策に関するカイ副首相のブレーンの一人であるベトナム商工会議所のファン・チ・ラン専務理事から、今国会を踏まえた最近のベトナム情勢について説明を聞いた。

ファン・チ・ラン専務理事

  1. 経済概況
  2. 86年以降のドイモイは89年頃から効果が表れ、特に農業分野での顕著な成果に助けられて、ベトナム経済は立ち直りを見せた。海外の関心も高まり、国際機関の援助も再開されるようになった。91年〜95年の実質GDP成長率は年平均8.2%で、95年は9.5%の成長が見込まれる。物価上昇率は88年に393.8%であったが、94年には14.4%まで低下した。投資は活発であり、海外からの投資も全体の31%を占める。以前はソ連等のコメコン諸国との関係が緊密であったが、最近はアジア太平洋地域との貿易、投資が全体の約8割を占めている。

    計画経済のときには存在しなかった民間部門は現在GDPの54%にまで成長した。雇用の7割を占める農業分野では98%が民間である。重工業やインフラ関連分野では40%を民間が占め、貿易の75%も民間によるものである。ベトナム政府も国営企業の民営化に重点を置いている。96年〜2000年の新経済計画のもとで工業化と近代化をさらに進め、2000年にはGDPを91年の2倍にする目標を掲げている。90年の時点では、GDPの2倍に引き上げることを目標にしていたが、このほど、1人当たりGDPを2倍にすると修正した。

    ASEAN加盟の後、ベトナムはAPEC、WTOへの参加も検討しており、他のASEAN諸国の支持も得ている。AFTAの一員としてCEPT(共通効果特恵関税制度)プログラムに則り、96年1月以降、関税を順次引き下げ、他国に3年遅れて2006年に自由化を達成する予定である。

  3. 行政機構の統廃合
  4. ベトナムの経済開発には莫大な資金を要し、国内資本とともに海外からの直接投資が欠かせない。政府は外国の投資家がベトナムに投資しやすいように環境整備に努めている。その一環として今国会で行政機構を統廃合し、11月1日から8つの官庁を3つに集約した。すなわち、国家計画委員会(SPC)と国家協力投資委員会(SCCI)を「計画投資省(MPI)」に統合し、ODAや直接投資の受入窓口を一本化した。これによりライセンスの取得手続きも簡素化されよう。また、エネルギー省、軽工業省、重工業省が「工業省」となり、農業・食品工業省、林業省、水利省を「農業・農村開発省」とした。各省庁の機能と責任を明確にすべく政府は努力している。

    また今国会ではベトナム史上初の民法が可決され、96年7月1日から施行されることとなった。商業上の権利や保護、当局との係争発生の場合の手続きなども規定されている。世界の法律の専門家からは、「ベトナムの民法は高度な内容を持つものであり、国際的な基準も満たしている」との評価を得ている。

  5. 日本との経済関係
  6. 日本との経済関係は急速に発展している。現在、貿易相手国として日本は第1位を占め、投資の面でも93年は第6位、94年は第5位、現在は第3位である。日本からは110 件、17億ドルの投資が行われ、化学、鉄鋼、セメント、石油などの重化学工業、消費財、繊維、靴などの軽工業、またインフラ関係のプロジェクトなどの分野での投資が目立つ。日本企業は第3国企業と共同で投資している場合もあり、台湾、シンガポール、豪州、タイのプロジェクトであっても、日本企業が名を連ねている。このような見えざる投資を含めると、日本の投資順位はさらに上がるだろう。

    日本企業は一般的に用心深く、意思決定に時間を要する。リスクを考えてのことだろうが、ビジネスにはリスクは付き物であり、長期的にみればリスクを補って余りある見返りがあるものと思う。円高に伴い海外進出を考える日本企業にとって、ベトナムは有望な進出先である。かつてベトナムのイメージは暗かった。しかし、ASEAN加盟によりベトナムは4億人の市場に隣接し、またメコン川総合開発も計画されていることから、その将来は明るい。

    米国企業もベトナムに興味を示しているが、文化の違いが大きく、相互の理解は不足している。日本とは文化的にも近く、相互理解も進みやすい。米国市場で活発に事業展開している日本企業に、ベトナムと米国との架け橋になってもらいたい。ベトナム経済の発展に日本は大きな役割を果たしてきた。今後も日本の協力を期待したい。

  7. 国営企業の改革と土地使用権
  8. 95年初めに政府は、各省庁から国営企業を切り離し、独立した法律により運営すると発表した。ベトナムの国内企業は規模が小さく、事業基盤強化のために公社を作ることになった。現在までに15前後の公社が設立され、中小企業を取り入れた。各企業の活動は独立しているが、公社を通じてプロジェクトなどを共同で行い、外国のパートナーとは公社が交渉することになる。

    国営企業の数は3年前は12,000社であったが、現在は 6,000社にまで減っている。このうち利益を上げているのは3割程度で民間部門に比べ利益率が低い。国営企業の株式化(民営化)については2〜3年前から話題になっているが、民営化した企業は3社だけである。キエト首相は将来、国営企業は一握りの数になると述べたが、民営化を進めるには法体系の整備、特に会計監査制度の改善が必要である。国営企業は民間企業との協力も進めている。

    ベトナムでは、土地は高価な資産であり、今回公布された民法も土地に関する規定を置いている。土地の所有権は国に属しているが、国営企業が土地使用権を取得すれば、商業目的に使用できるし、使用権の譲渡も可能である。土地使用権を担保に融資も受けられる。使用権取得の手続きも簡素化された。


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