日本ベトナム経済委員会(座長 荒木正雄インドシナ研究会座長)/11月27日

市場経済化に取り組むベトナム共産党の課題
─レ・フォク・ト共産党政治局員と懇談


ベトナムでは社会主義体制の下での市場経済化を進めており、ベトナム共産党も時代の変化に対応して党内改革に取り組んでいる。市場経済化のなかでベトナム共産党がどのような課題に直面し、どのような改革に着手し、今後どう変わろうとしているのかなどについて、レ・フォク・ト ( Le Phuoc Tho ) 政治局員兼中央書記局書記から説明を聞いた。

  1. ドイモイ前史
  2. ベトナム共産党は65年の歴史を持つが、この間にフランス植民地統治、独立戦争、南北分断、米国との戦争を経験してきた。
    1946年〜54年、ベトナム共産党はフランスの植民地支配を終わらせるため、人民を指導して独立戦争を遂行し、ディエンビエンフーの戦いに勝利した。しかし、南北は分断され、55年以降は北ベトナムでの社会主義国家の建設に尽力する。米国との戦争の末、75年に南ベトナムを解放し、南北統一を達成したが、統一後の最大の課題は経済再建であった。86年からは市場経済化を目指してドイモイ政策を遂行している。

  3. ドイモイの成果
  4. ドイモイの目標は、市場経済に則り、国家管理のもとで人民を豊かにし、文化的で強い国家を建設することである。91年〜95年の年平均実質GNP成長率は8.2%となり、これまでの政策が成功していることを裏付けている。経済活動は計画を上回り、工業生産は同13.3%増、農業は同4.5%増となった。コメ生産は年間100 万t以上の増産を続け、95年は2700万tを見込んでいる。その結果、いまでは年間150 〜200 万tのコメを輸出するようになった。86年には775 %であった物価上昇率も89年には35%となり、現在は12.3%にまで低下している。
    ベトナムの政治は安定している。政治が安定してはじめて経済も安定し、また経済の安定化が政治の安定化にもつながる。生活水準も向上し、民主的な雰囲気も醸成されている。

  5. ドイモイの課題
  6. ベトナムは、インフラの不足、財政赤字、貧富の格差、農村と都市との格差の拡大などの問題を抱えている。96年〜2000年の経済計画では、格差の縮小を目指している。ベトナムの1人当たりGNPは200 ドル程度であり、東南アジアのなかでも低い水準にある。時間をかけて近隣諸国に追いつきたい。かつて計画経済のもとで国家丸抱えの政策をとっていた頃は、人民の労働意欲は低かったが、いまでは各人が仕事に意欲を持つようになった。市場経済化のなかでも国家管理は行われている。人民はベトナム共産党に信頼を寄せ、党としても人民を貧困から救い出す活動を続けている。戦争で親や子を亡くした家族には、国が手厚い保護を行なっている。党と人民との間には密接な関係があり、これが政治の安定につながっている。

  7. 共産党の組織
  8. ベトナム共産党は強固な基盤を持ち、現在200 万人の党員を抱え、4万人の党職員が各機関で働いている。党の組織は全国に広がっており、社会や経済に密接した活動を行なっている。これらの活動は国の政策に則って進められ、民主主義を実現している。ベトナムは「人民の人民による人民のための国」である。
    今後もドイモイは継続される。これまで同様、党は人民の先頭に立ち、改革を推進していく。党職員も献身的な努力を続けている。党の指導に誤りがあれば正し、ドイモイの成果は人民に還元される。党に対する人民の支持は高まっている。

  9. 行政機構の改革
  10. ドイモイに取り組んでから既に10年が経過した。改革は経済分野から始められ、政治改革も一歩ずつ着実に進められている。旧ソ連も改革に取り組んだが、政治改革から始めたために失敗した。
    95年10月の国会では国家機構も簡素化した。組織が巨大化すると中間組織が増え、手続きが複雑となり、内外から批判が出されていた。経済活動を活発にするためには中間的な組織を減らす必要があると考え、統廃合を行なった。
    国営企業の民営化も試験的に行なっているが、現在は研究段階である。将来は証券取引所も開設したいと思う。

  11. 農村対策
  12. 現在、農業銀行が貧しい農民に直接融資を行っている。担保を必要とせず、手続きも簡単である。台風の被害を受けた地域では、国家予算によって農民を対象に援助を行なっている。2000年までの経済計画のなかでも、農村の機械化と工業化をうたっており、灌漑施設の整備、水と電気の供給、農産物の加工などが今後の課題である。外国企業との協力により農産物の加工に力を入れたい。
    農業の増産を促したのは、私有の概念が導入されたからである。土地は国家のものだが、農民には30年〜50年の使用権を譲渡している。長期間の使用を認めることで、農民は土地をよく手入れするようになり、また、価格を自由に設定して農産物を販売できるようになった。流通は国営企業を介しているが、30%〜40%の利益が農民の手元に残るようにしている。20年前のコメの生産量は1500〜1600万tであったが、ドイモイ以後、生産量は増加し、今後も増産が見込まれる。土地の開墾が進めば3000万tの生産も可能になろう。人口の増大に伴い、土地が狭くなったため、水田を他の建設事業に使用することは厳しく制限している。人口が1億人になると問題がさらに深刻化するので農地は確保しておく必要がある。

  13. 対外関係
  14. 友好国との協力関係を広げることも大きな課題である。すべての国との友好関係を築きたいと思っている。相互に主権を尊重し、お互いに利益を分かち合いたい。現在ベトナムは156 カ国との外交関係、120 カ国との通商関係を持ち、180 カ国との間で友好関係を維持している。NGOとも良好な関係にあり、こうした国際的な繋がりは徐々に拡大している。日本からは多大な援助を受けており、人民とベトナム共産党は日本に心から感謝している。


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