評議員会議長挨拶

わが国の進むべき道を示し、その実現を目指すことこそ経団連の責務

齋藤 裕 評議員会議長


わが国を経済社会をとりまく環境は依然厳しく、経団連として取り組むべき課題は内外に山積している。いくつかの問題について、所見を申し述べたい。

  1. 経済の構造改革が不可欠
  2. 国内の経済運営については、十分とは言えないながらもかなり円高が修正されたことや、最大規模の経済対策が打ち出されたこともあり、景気は、心理的にはやや明るさを取り戻してきた。しかし、失業率が3.2%と最悪の水準にある等、実態面では、厳しい状況は依然として解消していない。
    政府では、来年度の成長率を2.5%と予想しているが、この目標も現状では到底容易には達成できないものと考える。
    当面は、先の経済対策の着実な執行に加えて、来年度予算でも景気に配慮していくことが重要である。昨日発表された予算原案では、公共事業が4%増となる等、景気への配慮がうかがわれる。しかしながら、あわせて、構造的な要因を解決しなければ、本格的な景気回復は望めない。まさに、税制改革の断行、規制の撤廃・緩和、新産業・新事業の育成、不良債権の適正な処理を中心とする金融システムの安定化等、経済の構造改革を早急に進めることが不可欠である。

  3. 法人税負担の軽減が必要
  4. 特に、税制の改革については、先般、平成8年度税制改正大綱が取りまとめられ、地価税や土地譲渡益課税の軽減、有価証券取引税の税率引下げ等、具体的な税負担の軽減を実現することが出来た。
    しかし、今回の措置は決して十分ではない。わが国経済の活力を高めていくためには、諸外国に比べても過重になっている、企業の税負担を軽くしていくことが不可欠である。政府税調では、法人税の見直しについて、来年秋の答申に向けて、本格的に議論されることになっているようだが、この機会に是非とも、法人税負担の引下げを実現する必要がある。

  5. リーダーシップのある政治の実現
  6. 前述の規制緩和や税制改革等、経済の構造改革を進めていくためには、これまでの既得権益を乗り越えていくことが不可欠であり、それを行いうるのは、結局は、政治のリーダーシップがあるかどうかにかかっている。
    しかし、現状の連立政権のもとで政策を実行に移すには、3党のコンセンサスがまず必要であり、わが国の将来を考えた、思い切った対策を果敢に実行していくことが難しい状況にある。経団連としては、当面、重要政策について各党の理解を得るために、あらゆる機会を通じて、政治に対して発言し、注文を付けていただきたい。
    また、中長期的には、新しい時代に相応しい政治体制を作り上げていくことが求められている。政治の面で安定した体制を築くには、今後、数年を要するかもしれないが、これを少しでも早く実現していくためにも、私は、まず、できるだけ早い機会に解散・総選挙を行うべきであると考える。政治家が選挙を先延ばしするようでは政治の未来はない。早期に選挙が行われ、日本の政治が安定し、政策本位の政治が実現していくことを期待している。

  7. 民間外交の強化
  8. 経済界は、外交分野については政府の役割ということで、あまり積極的に発言しないようである。しかし、国際的な相互依存関係が深まる中で、外交の中に占める経済の比重が極めて重くなってきていることに加え、わが国のビジネスマンが、海外の政界、官界、財界の有力者と会う機会もますます増えている。経済界としても、外交のあり方などについて、日頃から関心を持ち、政策を提言していくことが求められている。
    経団連も今年は、豊田会長を中心に、アセアン各国や、ヨーロッパなどへミッションを派遣し、政策対話を行ったり、APECビジネスコングレス等、多国間ベースの会合を主催する等、時代に応えるための活動に取り組んでいる。こうした活動を、今後一層深めていくとともに、必要に応じて随時、海外の経済団体と共同で行動を起こすなど、政策活動の舞台を国内から国際へと拡大していっていただきたい。

  9. 経団連の責務
  10. 経団連は、来年で設立50周年を迎えるが、戦後50年、世の中は、民間主導の活力ある社会へと大きく変化しつつある。今や、経済界が自ら、自己の判断と責任において、新しい経済社会を切り拓いていかなければ、わが国の発展はありえないという時代を迎えている。この意味で、経団連が、取り組まなければならない課題はますます広がりつつあり、しかも、それぞれの課題について、解決策を提示し、それを実現する実行力が問われるようになっている。経団連は、自ら、わが国の進むべき方向を指し示し、新しい経済社会を築いていくという覚悟で、活動を進めていただきたい。


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