会長挨拶

本格的な景気回復の実現と構造改革の推進

豊田 章一郎 会長


  1. 景気低迷からの脱却を目指した活動
  2. 本年は戦後50年にあたり、わが国経済が内外の環境変化の中で、重大な岐路にたっているとの認識でスタートした。しかし、阪神大震災や急激かつ大幅な円高、さらには地下鉄サリン事件等もあり、社会不安と閉塞感が広がり、景気回復が遅れる状況が続いた。6月の日米自動車交渉の妥結、夏頃からの行き過ぎた円高の是正、9月に政府が大型の経済対策を打ち出したこともあり、企業マインドに若干明るさが見えはじめた。そして、APEC大阪会議の成功や不良債権問題の処理に目途がついてきたことにより、日本経済もようやく落ちつきを取り戻し始めている。決して楽観はできないが、96年は、本格的な景気回復の年となることを期待するとともに、経団連としても最大限の努力をしていきたい。
    95年、経団連は、景気の早期回復に向け、大規模な緊急経済対策や規制の撤廃・緩和の具体的な実行、為替の安定化等を、首相をはじめ関係方面に積極的に働きかけた。
    また、2010年の産業構造の展望を示しつつ、構造改革に不可欠な、税制の抜本的な改革、規制の撤廃・緩和、新産業・新事業創出のための環境整備に重点的に取り組んだ。さらに、首都機能移転の早期実現や、大規模拠点空港等の交通基盤の整備のあり方について提言を行なった。
    同時に、民間自らが経済活性化のために自己努力を行うべきとの観点から、規制緩和成果の積極的活用、自己株式の買入消却の推進、社内ベンチャーの育成等を会員企業に呼びかけた。
    一方、阪神・淡路大震災に際しては、1%クラブが中心となり、会員各社の協力を得ながら、被災地への必要物資の提供や企業人ボランティアの派遣を行なった。さらに、「震災対策会議」を発足させ、復旧・復興のための緊急提言や産業再生について意見を取りまとめ、関係方面に働きかけた。

  3. グローバルな対外活動の展開
  4. 対外関係の活動として、ベトナムを含むASEAN諸国や韓国、欧州へのミッション派遣、APEC地域の経済界代表者によるAPECビジネスコングレスの開催、米国ビジネスラウンドテーブルとの会合等があった。このような機会を通じ、アジアはもとより、欧米各国のトップと率直な意見交換を行うとともに、わが国の構造改革への取り組みについて理解を求めた。
    交流を通じて感じたことは、アジア各国では、インフラ整備、技術移転、人材育成等の面で日本への期待が大きい、各国とも高い経済成長に支えられてどこも元気で活気と自信に溢れているということである。
    欧州では、従来の日本市場の閉鎖性を批判する姿勢から協調的なアプローチに変化しており、日欧関係の強化に強い期待が表明された。また、欧米首脳は、気軽に日常的に意見交換をしており、EUの統合に向け、政治が強いリーダーシップを発揮しているのが印象的であった。

  5. 魅力ある日本のビジョンの公表
  6. 経団連は来年、設立50周年を迎える。世界的な転換期の中で、わが国を活性化させ、新たな未来を切り拓くために、経団連としては、96年1月に、魅力ある日本の創造をめざした経済社会ビジョンを公表する。
    日本の若者が未来に希望を持ち、世界の人々が日本に住んでみたい、あるいは日本でビジネスをしたい、そういう魅力ある日本の実現に向けての行動を今こそ起こすべきである。自助の精神を基本としながら、3%程度の経済成長を実現する努力を行い、本当に豊かさを実感できる、活力ある経済社会の創造を目指して、積極的に発言し、行動していきたい。また、教育問題についても、企業として取り組むべき課題を中心に、96年3月までに提言をまとめる予定である。

  7. 経済運営の当面の課題
  8. 先般の税制改正大綱では、土地保有税を中心に企業の税負担の軽減が打ち出された。十分な減税規模とは言えないが、ここ数年、企業増税が繰り返されてきたことを考えると、企業の活性化により景気回復を図るには企業の税負担軽減が不可欠との、私どもの主張に対する理解が出てきた。これを、法人課税の流れを変える転機にしたい。今後とも、税制改革は構造改革の柱であるとの観点で、企業課税の軽減や長寿社会に対応した税・財政改革に取り組んでいきたい。
    規制撤廃・緩和については、行政改革委員会等の努力により、本年度末までに政府の計画の約6割が実施される見通しであり、成果が少しづつ出始めていることを評価したい。しかし、農業分野や需給調整の観点からの参入・価格規制の見直しについては不十分に終わっている。規制撤廃・緩和は構造改革の最重要の柱であるという認識で、引き続き精力的に取り組んでいきたい。

  9. 政策本位の政治の実現
  10. 政治のあり方については、金のかからない政策本位の政治を実現するために政治・企業委員会で引き続き検討していく。政治に対する内外の信頼を回復し、転換期にあるわが国を積極的にリードしていくことを期待したい。経団連としては、企業人を中心として政治への関心を高める具体的な方策を探るとともに選挙・投票の重要性を呼びかけていきたい。

  11. 民間外交の強化と多面的な活動
  12. 民間外交の強化については、2国間のみならず多国間にかかわる活動はもとより、政府、各国の経済団体、世銀等との交流をさらに深めていきたい。
    来春には中国にミッションを派遣し、グローバルな視点から日中関係のあり方を探っていきたい。また、第2次欧州ミッションの派遣、米国ビジネスラウンドテーブルとの会合、APECビジネスコングレスへの協力等、多面的な活動を展開していきたい。
    今後とも私どもの活動に対する一層の支援とご協力をお願いする。


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