来賓挨拶

安定成長には経済構造改革が必要

村山 富市 内閣総理大臣


  1. 今年1年の回顧
  2. 今年は、戦後50年の節目であり、ひとつのけじめという意味で、8月に内閣総理大臣談話を発表し、わが国の過去に対する歴史認識を明確にするとともに、今後平和に取り組み、新しい時代を展望していく姿勢を内外に明らかにしてきた。また、被爆者援護など戦後処理問題や、水俣病の解決など、永年の懸念事項の解決に努力して、ひとつの区切りをつけた。
    しかしながら、今年1年をふり返って見ると、政府にとっても、また経済界にとっても、まことに厳しい激動の年であったと思う。急激な円高、金融の不良債権の問題など、経済環境も大きく変化してきた。また、阪神・淡路大震災やオウム真理教信者による一連の凶悪事件が発生し、いじめ事件も政治として見過ごすことのできないものである。こうした厳しい経験を、来年以降の貴重な教訓としたい。

  3. わが国経済の現状
  4. 今年は、本格的な経済成長への回復軌道に乗る初年度として期待されていたが、1月の震災、3月以降の急激な円高の影響などもあり、再び不透明感が増してきた。また、アジア諸国が急激に台頭するなど、国際的経済環境が大きく変化している中にあって、高コスト構造が顕在化し、産業の空洞化が懸念され、高齢化社会を目前にした雇用不安の問題が深刻になりつつある。思い切った経済構造改革に取り組むことが、一刻の猶予も許さない状況にある。
    このところ、一連の経済対策の効果もあって、民間設備投資、為替相場の動向などいくつかの明るい指標も出てきている。しかし、鉱工業生産は引き続き弱含みで推移するなど、依然として厳しい指標もある。景気の先行きの不安をはっきりと払拭できるよう、来年度予算編成、税制改正などを通じて、適切かつ機動的な、切れ目のない経済運営に努力していきたい。

  5. 不良債権処理問題
  6. 住専問題の処理において、6,800億円の公的資金を導入することとした。このまま住専問題を解決しなければ、わが国の金融秩序に対する国際的信用も失墜しかねず、また景気の回復にも支障が生じかねないことから、やむを得ず、国民の皆様に負担をお願いすることとした。私にとり、まことに苦渋に満ちた決断である。是非とも、国民の皆様のご理解とご納得をお願いしたい。
    住専・関係金融機関の責任の追求、厳格な債権回収による借り手責任に全力を傾注するとともに、金融行政・政治の責任についても明らかにしていきたい。また、金融業界も、このような事態を深刻に認識し、損失負担だけでなく、この際襟を正して、国民の信頼を回復するよう努力してほしい。

  7. 経済構造改革の推進
  8. 今後の中長期的な経済見通しとしては、経済構造改革が順調に行われれば、年平均3%程度の経済成長が可能であると考えている。これから大切なことは、個人の自立、企業の自己責任原則の下で、その創造力を大いに発揮できるような、自由で活力ある経済社会を構築することにある。高コスト構造の是正など、企業の立地拠点としてわが国の魅力向上を図りながら、新産業・新規事業の創出によって、経済フロンティアを拡大し、雇用機会の拡大を図っていかなければならない。
    規制緩和については、経団連をはじめ各方面の要望を伺いながら規制緩和推進計画を不断に見直しつつ、思い切って推進していきたいと考えて取り組んでいる。わが国の諸規制の中には、経済発展の基盤として機能してきたものもあるが、今や新しい時代のもとで、逆に発展の阻害要因となっているものが少なくない。産業界においても、そうした認識をはっきりと持っていただき、規制緩和の実施に一層協力願いたい。
    構造改革を可能とするには、経済社会基盤を整備・充実させなければならない。特に、科学技術創造立国を目指して、中長期的の科学技術基本計画を策定し、創造的な研究開発と、知的資本の整備を計画的に進める必要がある。また、先導的な電子情報技術の開発・導入の推進を通じ、わが国の情報化基盤を整備していきたい。そして必要な社会資本を整備するためのメリハリの効いた公共投資の推進を心掛けていきたい。
    経済構造改革はその過程で痛みを伴うものであるが、まさしく生みの苦しみとして経済界の皆様にも、一層の積極的に取り組んでいただきたい。

  9. 国際分野におけるわが国の役割と責務
  10. 11月に、わが国は、APECの議長国として大阪会議を開催し、成功裡にこれを終えることができた。採択された行動指針は、各メンバーの自主的行動と共同行動を組み合わせるという、いわゆるアジア・太平洋方式と呼べるものである。今後は、この指針に従い、APECの各メンバーが具体的な行動計画を策定する段階にある。わが国は引き続きAPECを通じてアジア・太平洋地域の豊かな未来の実現に向けて、大きな役割を果たさなければならない。
    来年の3月には、アジア・欧州首脳会合が開催されるが、この会合は、これまでつながりの薄かったアジアと欧州の連携を首脳レベルで強化しようという、歴史的な意義を有するものである。両地域の経済関係の発展が、多角的貿易システムの強化に資するようものとなるよう、わが国として最大限の努力を行いたい。
    WTOの発足によって、知的財産権、サービスに及ぶ広範な分野に関する国際的なルールが策定され、紛争解決手続きが強化されている。自由貿易の恩恵を受けてきたわが国は、WTOの発展に積極的に貢献をしていかなければならない。
    また、急激な経済成長が人口増加とあいまってエネルギーや食料需要を急増させ、環境に与える負担を高めている。このような地球規模の課題にリーダーシップを発揮することこそ、わが国に相応しい国際貢献である。


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